« 在庫等々 | トップページ | 物価指数のバイアス【補足】 »

2015年4月14日 (火)

物価指数のバイアス

ご質問をいただいておりました。


ラスパイレス物価指数では、安くなったものへの買い替えなどバスケット変更を捉えられないので、基準年から離れるほど最適なバスケット(欲しいものを出来るだけ安く変えるようなバスケット)から乖離して物価指数を高く見積もってしまうということは分かります。


この、最適バスケットからの乖離は過去に対してはどうなのでしょうか。たとえば現在の2010年基準のCPIを見た時、2005年の物価指数に使われる2010年のバスケットは最適なものと乖離しているはずです。すると、2005年の物価指数は実態より高くなっている(2005年から2010年までの物価指数上昇率は実態より低くなっている)ということになるのでしょうか。つまり上方バイアスは基準年以降についてであって過去については下方バイアスになったりするのでしょうか(GDPの個人消費デフレーターとの関係からするとどこか間違っている気がしますが)。


より具体的に申しますと、厚生労働省が生活保護費の物価調整のために算出している、生活扶助cpiに対して、2010年基準にすると2008年から2010年までの物価上昇率を実態より小さく見てしまう(物価下落率を実態より大きく見てしまう)という批判がありますが、それは妥当なのでしょうか、という疑問になります。今週号(2015411日号)の週刊東洋経済にあった批判です。



物価指数の上方(下方)バイアスについてのご質問です。ご質問でも触れておられます通り、固定式のラスパイレス物価指数(CPI)では上方バイアスが、固定式のパーシェ物価指数(GDPデフレーター)では下方バイアスがある可能性が高いです。それは、計算式を見ればよくわかります。


固定式ラスパイレス物価指数については、

1


固定式パーシェ物価指数については、

2


と計算できます。


ラスパイレス指数の計算式の分子の部分、3
は、基準年の購入数ウェートでt年の価格を集計したものとみることができます。この時、t年の価格体系で実際にモノを購入するとした場合、本来購入数ウェートは異なるはずで、具体的には安くなったものの購入ウェートが増え、高くなったものの購入ウェートが減るはずです。しかし、実際にはそうなっていない、すなわちこの集計式が示しているものは「高いものをたくさん買い、安いものを少なく買う」という状況のはずです。この状況は、何かしらの理想となるはずの集計数よりも数値が高くなっているということを意味しているはずです。


そして、ラスパイレス指数の場合は、その集計数が「分子」にあるので、基準年からずれるほど上方バイアスが生じてしまう可能性が高いわけです。


同じことはパーシェ指数の分母の部分、4
にも言えて、そしてパーシェ指数の場合はこの集計数が分母に来るので、下方バイアスが生じてしまう可能性が高くなります。


(注)今の議論でお分かりいただけたと思いますが、「値段が安いものをたくさん買う」という通常の経済行動を行わない主体の場合は、この議論は成立しません。事実、非市場財を購入している、政府最終消費支出や非営利団体最終消費支出などでは、あまり明確にバイアスが生じないことが起こってもおかしくないと思います。


そしてご質問の基準年から過去についてですが、これも上記の議論でお分かりいただけます通り、ラスパイレス指数なら基準年から過去に向かって離れても「上方バイアス」が、パーシェ指数なら基準年から過去に向かって離れても「下方バイアス」が生じる可能性が高くなります。


これを明確に示すためには、バイアスの発生が抑えられる連鎖指数と比較すると分かりやすいのですが、残念ながら消費者物価指数は「基準年より過去の連鎖指数」を公表していないようです。ですので、ご質問の趣旨とは外れますが、基準年より過去のデータも公表している「GDPデフレーター」のグラフを見てみましょう。


※2005年基準GDPデフレーター(連鎖及び固定)の推移

5


これを見ると、基準年及びその翌年以外は、固定指数について見事に下方バイアスがあることが分かります。GDPデフレーターはパーシェ指数なので下方バイアスになりますが、CPIはラスパイレス指数なのでこの逆に上方バイアスが見て取れることになります。


これは指数そのものについてですが、伸び率について言うなら、パーシェ指数については基準年より前は固定指数が連鎖指数より伸び率が高く、基準年の2年後からは固定指数が連鎖指数より伸び率が低くなります。ラスパイレス指数については逆のことがいえます。


ということでお答えになっているでしょうか?

« 在庫等々 | トップページ | 物価指数のバイアス【補足】 »

経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

ありがとうございます!連鎖指数と固定指数との比較でイメージがかなりはっきりと掴めました。と同時に、CPIの上方バイアスを考慮する時には常に基準年を考える繊細な注意が必要なことも分かりました。

生活扶助cpiも、2010年基準で2008-2010の伸びを計算すると、2008年の指数を実態より高く算出してしまっているので、実際より物価下落を大きく見てしまうという問題が確かにありますね(かといって2005年基準が正しいわけでもないので難しい)。東洋経済の記事では、厚労省はこれをパーシェと説明したそうですが。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/559179/61436644

この記事へのトラックバック一覧です: 物価指数のバイアス:

« 在庫等々 | トップページ | 物価指数のバイアス【補足】 »

無料ブログはココログ
2016年8月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31