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2013年10月

2013年10月24日 (木)

政府の範囲(2)

前回の続きです。政府の範囲を決める基準についてです。

政府の範囲についての基準は2つあり、

①非市場生産かどうか

②政府に支配されているかどうか

というのが、メルクマールになります。そして、このうちいずれをも満たす場合に「政府」と認定されることになります。このうち②のメルクマールについて、「政府」を定義するのに「政府に支配されているかどうか」と出てこられても困るというのはそのとおりかと思います。そこで、少しマニュアルを見てみると、

4.104. 政府単位は、政治的過程を経て設立された独特の法的実体であり、ある特定の地域内の他の制度単位に対して、立法、司法、行政の権限を有するものである。制度単位という観点からすると、政府の主要な機能とは、そのコミュニティーまたは個別家計に対する財貨やサービスの供給に責任を負い、税や他の収入により、その資金的手当てをすること、さらに、移転という手段を用いて所得や富を再分配すること、また非市場生産に従事することである。(後略)93SNAマニュアル)

4.117 Government units are unique kinds of legal entities established by political processes that have legislative, judicial or executive authority over other institutional units within a given area. Viewed as institutional units, the principal functions of government are to assume responsibility for the provision of goods and services to the community or to individual households and to finance their provision out of taxation or other incomes, to redistribute income and wealth by means of transfers, and to engage in non-market production.(略)

2008SNAマニュアル)

と書いてあり、政府は、立法、司法、行政を行っている法的組織であり、主に税によりその資金が賄われており、富の再配分や非市場生産をしている組織が対象とうことが分かります。ですので、主に税収でもって、立法、司法、行政活動をしているような、政府といわれて「一般的に思い浮かべる機関」は、②の基準を当てはめるまでもなく「政府そのもの」と考えることができるのではないかと思います。したがって、②が当てはまっていくのは、それこそ別の法人格を持ってしまっている政府機関についてということになるのではないかと思います。

そもそもNational Accountsの経済活動の主体である制度単位は、「それ自身の権利により、資産を所有し負債を負い、経済活動に従事し、他の実体との取引に携わることができる」必要があり、荒っぽくいってしまうと「その制度単位単独でB/Sが作れること」が必要となってきます。

そこで、J-SNAでは、それぞれのB/Sが作れる国の一般会計、特別会計、地方の普通会計、公営事業会計は、政府活動そのものですから、②について満たしていると考え、その上で①を判断することにしています。ですので、②については、政府の会計ではなく、別人格の法人等が対象となることになります。

②の支配しているかどうかというのは、会社法の親会社、子会社関係の規定と同じく「general policyを支配しているかどうか」、具体的には株式会社であれば取締役会を支配できているか(過半数の議決で決まるので、取締役会に構成員の過半数を送り込めるかどうか)が大きな基準になります。(他にも、「黄金株」の問題など細かい話はありますが、それは枝葉の話と言っていいと思います。)

そして、①については、「非市場生産」というのは、無料や非常に安い価格で販売している財・サービスということで、概念としては分かりやすいのですが、定義が非常に難しいです。実際、93SNA2008SNAともに「経済的に意味のない価格(prices that are not economically significant)」という定義としては非常にあやふやな定義がなされています(笑)

ですので、各国とも困っており、EUはこれを思い切って「生産コストの50%を売上げで賄えているか」という基準を作って、各国これに従っています。J-SNAもこの基準を拝借させていただいています。

したがって、例え、形式上株式会社であっても、政府が過半数の株式を持っている場合で、売上げがコストの半分をまかなえていない場合は、政府となります。(注:株式会社の取締役は、株主総会で決まりますので、過半数の株式を持っている場合は、好きなように取締役を選ぶことができますから、取締役会の構成員に過半数を送り込むことができます。)

一方で、政府の特別会計でも、売上げが高くてコストの50%をまかなっている場合は、政府ではありません。

このように同じ基準で定義している以上、ある程度、各国比較として用いることは意味があるのではないかというのが私の意見です。

そして、(州政府がある場合は州政府)、地方政府、社会保障基金と、その部門を更にsub部門として分割している訳で、これもまたある程度同じ定義で区分している以上、国際比較としては有用なのではないかと思います。

2013年10月23日 (水)

政府の範囲

またまたご質問をいただいておりました。

一般政府(中央政府+地方政府+社会保障基金)というのは、SNAの用語のようですね。もしご存知であればでよいのですが、①SNAということは、各国の政府は一般政府で比較すべきなのか(してよいのか)、②なぜ国の大きさを一般政府という範囲で考えているのか、という点についてご意見いただければ幸いです。

というご質問です。国際比較と政府の範囲に関してのご質問で、非常に重要なテーマだと思います。ご質問いただきありがとうございます。以下、順に考えてみようと思います。

SNA(system of national accounts)の有用性は、一国経済の流れを、多くの「勘定(accounts)、「全部門(一国全体)」、個別の「制度部門(非企融法人企業部門、金融機関部門、一般政府部門、対家計非営利団体部門、家計部門)」集計しているということにあります。そして、国ごとに異なる制度でありながら、「できるだけ統一の基準」でこれらの勘定、部門(制度部門)を整理しているというところが長所だと思います。

この制度部門のひとつとして、いわゆる「政府」をまとめたものが「一般政府」ということになります。ですので、基本的に同一の基準で集計されたいわゆる「政府」を比較することができるという意味で、優勢性が高いのだと思います。

ですが、この同一の基準というものも結構厄介です。「一般政府」というと、各国ともに同じようなことをやっているように思えます。確かに、立法、司法、多くの行政業務などは分かりやすく、どこの国でも行っていると思います。しかし、特にその政府の活動の外延部分になると、国によってその制度は大きく異なります。

例えば、現在、日本では鉄道事業の大部分はJRという民間企業が活動しています。しかし、かつては「国鉄」という形で国が自ら鉄道事業を運営していました。しかし、世界中の国の中では、国営で鉄道事業を運営している例もあります。更に、日本の中でも、各都道府県の中には「第3セクター」という形で政府が出資した(100%出資という場合も多いです)民間会社が鉄道事業を運営しているところもあります。一方で、国営で鉄道事業を進めながら実は「黒字」という場合もあるかもしれません。

このようなときに、どの鉄道事業が「政府」で、どの鉄道事業が「非政府」と決めるのは実は容易ではありません。このように各国で制度、事情が異なるにもかかわらず、SNAでは、「この活動は政府」、「この活動は政府でない」と区分けをしなければいけませんので、そのための何かしらの基準が必要になってきます。

長くなってきましたので、続きは次回に。

2013年10月 5日 (土)

金融取引(6)

長々と続いてきましたが、最後に、national accountsにおける金融サービスの計測方法について触れようと思います。

我々が銀行からお金を引き出したり、送金したりするときに、手数料を支払っていると思います。この手数料は、典型的な「金融機関の生産したサービス」の代金です。ですので、金融機関がこれらのサービスを生み出していると考えることは分かりやすいことだと思います。

一方で、金融機関が生み出しているサービスは、これだけと考えていいでしょうか?例えば、銀行は、我々から預金を預かり、それを原資として企業に融資しています。そして、そのタイミングと金利差で利益を上げている訳です。この「金融仲介サービス」を計測しましょうという試みがnational accountsの中にはちゃんとあります。それが、「間接的に計測される金融仲介サービス(FISIM)」というものです。

FISIMの概念を単純に言うと、貸出利子率(企業などに融資する際の利子率)と調達利子率(我々が預金する際の利子率)の差に銀行の持っている預金(及び貸出)残高を掛けたものです。

(厳密には、貸出利子率と調達利子率の間に、参照利子率というものがあり、貸出利子率と参照利子率の差に貸出残高を掛けたもの+参照利子率と調達利子率の差に預金残高を掛けたものです。詳細は、

http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/h21/pdf/fisim.pdf

をご参照ください。)

こう考えると、金融機関の生み出しているサービスは、「自分のリスク(及び調達及び貸出期間のズレを補うこと)で生み出した、資金の融通サービス」であり、その対価は「貸出利率と調達利率の差」である、と言えると思います。ですので、金融機関の生み出したサービスは、手数料+上記の「貸出利率と調達利率の差」で計測されることになります。

この考え方自体は、私はものすごく自然だと思いますし、例えばヘッジファンドが預かったお金を運用して10倍にしたとしても、それ自体は何も生産していない訳ですから、GDPに含まれないというのも自然だと思います。(もちろん、ヘッジファンドが得た手数料は、金融機関の生産に含まれることになるでしょう。)

私自身は、ヘッジファンドの存在は、市場の歪みを早期に是正してくれる価値を持つ(市場の歪みを放置する方が、いろいろな面で悪影響が大きいと思います。)と思っており、決して「悪玉」と思っている訳ではありませんが、それでも、ただ単にキャピタル・ゲインを得ただけで、それが生産概念に入るのはちょっと意味が異なるということはお分かりいただけるのではないかと思います。

そして、同じことは、利子や配当のような財産所得にも言えると思います。良く、GNIであれば、利子や配当が含まれるから、日本のような資本輸出国の経済状況を表す良い指標だという声を聞きます。GNIは国民総所得ですから、国民全体でそれだけの所得を得ているということを表しているのは事実です。しかし、あくまで所得ですから、この額だけ生産している訳ではないのです。

生産活動と所得というのは、やはり違いがあり、生産を行っている場所では雇用が創出されます。こういった側面を無視して、GNIとかGDPとか一つの指標だけを見て、何かを判断するのは困難なことなのではないかと思います。言うは易しで、実行するのはなかなか難しいことではあるのですが、少なくとも、経済の分析を専門とする立場の人は、こういった指標それぞれの持つ意味を良く考えて、冷静に分析することが必要なのではないかと思っています。

2013年10月 4日 (金)

金融取引(5)

再び、GDPに戻ってみますと、キャピタル・ロスは2008年末で大幅に発生しているのですが、それによるGDPへの大きな影響はすぐには出ていません。ただ、民間最終消費支出が即座に減少しています。

そして、翌年になり、民間最終消費支出のみならず、民間総固定資本形成(民間企業投資+民間住宅投資)が大幅に落ち込み、在庫品増加も大幅に減っています。また、輸出も大幅に減少しましたし、これに前述の原油価格の下落により輸入は実質で増えるという事態が合わさり、外需は大幅なマイナスになっています。このうち、設備投資と在庫品増加については、リーマンショックによるキャピタル・ロスにより、国内消費及び輸出の落ち込みが予想され、設備投資を控えるとともに、在庫を取り崩したであろうことが想像できます。

その後2010年には、輸出も民間最終消費支出も回復し、これらの要因からGDPは4.7%の高成長となりました。民間最終消費支出の増には、自動車補助金などの政策要因もあったと思いますが、同時に、2009年、2010年と比較的大きな規模のキャピタル・ゲインが発生していることも見逃せません。リーマンショックで株価が大きく落ち込みすぎたので、その反動が出ているのだと思います。

ということで、ここまで見てきましたが、リーマンショックのような、お金面でのショック(具体的にはキャピタル・ゲイン/ロスの影響)は、GDPには間接的な影響しか与えていないことが分かります。

ただ、このようなことばかり書いていると、「では、GDPは、金融機関の経済活動が全く含まれていないのか?」という疑問と、GDPを経済指標として使うことに対する批判が出てきてしまうのではないかと思います。ですので、次回に、GDP(及びnational accountsの生産概念)における金融サービスの生産がどのように計測されるのかを触れて、この長い記事を終わりにしようと思います。

2013年10月 3日 (木)

金融取引(4)

さて、それでは当初の話に立ち返って、リーマンショックの時に、これらの

①生産勘定【生産勘定/財貨・サービスの対外勘定】

②所得支出勘定【所得の発生勘定~所得の使用勘定まで】

③資本調達勘定【資本勘定・金融勘定】

④調整勘定【その他の資産量変動勘定~再評価勘定】

⑤貸借対照表

の5つの勘定に何が記録されていたか見てみましょう。

まず、①に当たるGDPです。実質GDPの伸び率及び寄与度をみてみましょう。

GDP(前年比、前年比寄与度)

1

これをみると、2008年からマイナス成長にはなっているのですが、2009年の方がマイナス成長率は大きいことが分かります。また、その内訳を見ても、2008年に主にマイナスになっているのは、民間最終消費支出であることが分かります。2009年になると、民間総固定資本形成(民間投資+民間住宅)や民間在庫品増加が大きなマイナスになっています。そして、2009年では輸出が大きなマイナスとなっていることも注目されます。

では、金融面で何が起こったのか見てみましょう。これは、ストック編の総合の「3.調整勘定」内にある「(3)再評価勘定」を使っています。

再評価勘定(単位:兆円)

2

これをみると、2008年に大きく金融資産(特に株式)の価格が下落したことが分かります。更に、2009年には、非金融資産(すなわち、固定資本や在庫品などの実物資産)の価格が大きく下落していることが分かります。

再評価勘定は、実は2つに分けることができ、「a.中立保有利得または損失」と「b.実質保有利得または損失」があります。言葉だけだと意味がわからないかもしれませんが、大雑把に言って、前者(a.)は、一般的な物価水準(GDPデフレーター)の変動に伴う資産価格の変動分を示し、後者(b.)は当該資産価格の再評価による資産価格の変動分を示します。

a.中立保有利得または損失勘定(単位:兆円)

3

b.実質保有利得または損失勘定(単位:兆円)

4

これをみると、2008年に金融資産の価格が下落したのは、(b.)の方であることが分かります。つまり、株価の下落に伴い、大きなキャピタル・ロスが記録されていることが分かります。なお、(a.)について、2008年だけプラスになっているのは、この年のデフレーターの動きに特徴があったためです。というのは、この中立保有利得の基準となるデフレーターは「年末値」になるのですが、それが公表データでは入手できませんので、毎年第4四半期のデフレーターを見てみましょう。

各年第4四半期のGDPデフレーター(前年比:%)

5

これをみると、GDPデフレーターは2008年だけ横ばいで、後の年は下落していることが分かります。GDPデフレーターが下落しなかったのは、輸入デフレーターが大きく下落しているためです。2008年末には、原油価格が大きく下落したため、輸入デフレーターが大きく下落し、また、本格的に民間最終消費支出や総資本形成のデフレーターが下落する(すなわち、リーマンショックの影響で需要が減少する)前だったので、このようなことが起こったのだと思います。

長くなりましたので、続きは次回に。

2013年10月 1日 (火)

金融取引(3)

前回は、national accountsの体系が

①生産勘定【生産勘定/財貨・サービスの対外勘定】

②所得支出勘定【所得の発生勘定~所得の使用勘定まで】

③資本調達勘定【資本勘定・金融勘定】

④調整勘定【その他の資産量変動勘定~再評価勘定】

⑤貸借対照表

の主に5つの勘定からなっていることまで書きました。

では、このうち、「金融取引」に当たるものがどこに記録されるかもう一度整理してみましょう。

例えば、

(ⅰ)現金100万円持っていたところ、それをフェイスブックの株式の購入に充てる。

(ⅱ)100万円で買ったフェイスブックの株式が200万円に上昇した。

(ⅲ)200万円のフェイスブックの株式を、200万円で販売した。

という取引を考えます。

(ⅰ)という取引は、③の「金融資産」の記録において、

  現金          ▲100万円

  株式・出資金       100万円

  純貸出(+)/純借入(-)   0

ということが記録されます。そして、⑤において、保有していた資産のうち、現金が100万円減り、株式・出資金が100万円増えます。

(ⅱ)という取引は、④の調整勘定において、

  株式・出資金       100万円

  正味資産の変動      100万円

ということが記録されます。そして、⑤において、保有していた資産のうち、株式・出資金が100万円増えます。

(ⅲ)という取引は、③の「金融資産」の記録において、

  現金           200万円

  株式・出資金      ▲200万円

  純貸出(+)/純借入(-)    0

ということが記録されます。そして、⑤において、保有していた資産のうち、現金が200万円増え、株式・出資金が200万円減ります。

もうお分かりいただけました通り、これらの金融取引は、①の生産勘定はおろか、②の所得支出勘定にも一切影響を与えません。ですので、当然のことながら、①で出てくるGDPには一切影響を与えません。

これを持ってして、GDPが古臭いという見方をすることもできると思います。ですが、この金融取引って、何も生産していないことは事実なのですよね。。。ですので、national accountsの中では、生産の勘定とは別の部分に適切に記録されている訳です。ということを考えると、GDPが古臭いというより、「経済活動を見る指標として、何を利用するか」というだけの問題のような気がします。

まだまだ続きます。。。

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