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2013年2月26日 (火)

経常収支赤字(3)

③日本企業が、タイに子会社を作るため、手持ち現金100万ドルで直接投資をした。

この場合、どのように記録されるかというのが、今回の問題です。

この場合、まず、海外に対する日本の資産が100万ドル増えます。すなわち、資本流出です。具体的には、「資本収支」の中で、「直接投資」という項目の(海外)資産が増えます。

同時に、今まで持っていた手持ち現金100万ドルが減ります。これは、具体的には、「資本収支」の中で、「その他資産」という項目の(海外)資産が減ります。

これをまとめるとどうなるかというと、

経常収支+資本収支(+100万ドル100万ドル+外貨準備増+誤差脱漏  0

ということで、そもそも、経常収支も資本収支も変わらないのです。

さらっと書いてしまいましたが、この事実、『資本収支のバランスは、経常収支のバランスが変わるような取引(貿易や配当金など)のときだけ変わり、海外投資などの資本収支だけしか変わらない取引では変わらない』ということが意外に理解されていない気がします。

(日本では有名な某「国際経済の教科書」にも間違って書いてあったくらいですし、実はIMFBPM6でも、このことははっきりとは書かれていませんで、非常に紛らわしいです。但し、有名なG.マンキュー先生の英語のテキストにははっきりと正しいことが書かれています!!

これを見ると、「資本収支の大きなマイナスは、日本がたくさん海外に投資しているからだ!」という主張はちょっと首を傾げてしまいます。というのは、「日本がたくさん海外に投資している」という行為は、前述のとおり、統計上は「資本収支のバランスを変化させない」からです。

逆に、「日本が貿易黒字がなくなったので、海外資産の増である資本流出額が減った」というのはストレートな説明になります。

ただ、一点注意しなければいけないのは、「日本がたくさん海外に投資することで、日本円より外貨の需要が増え、円安が進み、貿易黒字が増え、経常収支も黒字化し、資本収支赤字が増える」という流れはありえます。実際に、BPM6でも、「資本収支」⇒「経常収支」の流れについてはこのような書き方しかしていません。しかし、多くの人は、「日本がたくさん海外に投資すれば、資本収支赤字が増える(ように統計上も記録されているはず)」と思い込んでいるように見えて仕方ありません。

というわけで、私が見る限り、ものすごく誤解されているのではないかという件でした。

最後に、前述のBPM6の抜粋を以下のとおり書いておきます。

BPM6の記述についても、いわゆる経済学でよく出てくるISバランスの話に寄り過ぎていて、統計がどういうことを意味しているのかを直接的に書いておらず、私個人的には「いかがなものか?」と思っています(笑)

それでも、よく見ると下線のように「直接投資、銀行借り入れなどの結果として、資金流入は、固定資本形成の増加と直接的にリンクする「かもしれない(may be)」」としか書かれておらず、まだ、良識の人が中にいたのだろうと想像します(笑))

 D. Financing a Current Account Deficit

 14.25 This section examines the financing of a current account deficit by means of net financial inflows and changes in reserve assets, and some of the economic policy issues involved. For such an analysis, it would be helpful to use identity (12), and to assume that initially S = I (i.e., that the current account is in balance and that net capital and financial account and reserve asset transactions are also zero). From this initial situation, it is instructive to trace the effects, on the current account and the financial account, of an autonomous increase in investment (capital formation), which is generated by a rise in the productivity of capital. If this additional investment is not matched by a corresponding rise in saving, interest rates will tend to rise as long as the monetary authorities do not controlthe rates. The excess of investment over saving will be reflected in a current account deficit, which may be financed by a net financial inflow.

 14.26 Whether there is spontaneous financing of a current account deficitthat is, whether the gap between saving and investment is met from autonomous flowsdepends on a number of considerations. The functional categories of the international accounts, as well as additional breakdowns (e.g., domestic sector, partner economy, currency of denomination), can be crucial to assess the determinants of such financing, and therefore the appropriate policy measures to foster the most appropriate and sustainable financing sources. In particular, direct investment is frequently characterized by stable and long-lasting economic links, as well as the provision of technology and management. The financial inflow may be directly related to increased capital formation as a result of direct investment, loans obtained from foreign banks, or bonds issued in international financial markets. The foreign financing can be for the purchase of imported goods and services required for an investment project and for the purchase of domestic inputs. Alternatively, additional investment may be financed domestically by means of bank loans or issues of equities and bonds. In this case, there is no direct link between increased domestic expenditures and foreign financing. However, the tendency for domestic interest rates to rise (in comparison with rates abroad) because of the increased investment will provide an incentive for funds to flow into the economy. Whether or not funds do so depends largely on how investors view the economic prospects of the economy. The prevalence of stable economic and political conditionsparticularly if it is not likely that the higher interest rate will be offset by a continuing depreciation of the exchange rate of the economywill increase the spontaneous movement of funds into the economy.

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コメント

いつも参考にさせて頂いてます。すばらしい解説力でいつも感服しております。今回の資本収支の誤解、私もずっと疑問でした。確かに「経常収支と資本収支は表裏一体」「資本収支の赤字はそれだけ経常黒字で稼いだお金を海外に投資しているからだ」という文言が頭から離れずにいました。となれば・・・2003年に資本収支も経常収支も黒字だったのは?となりますよね。それは外貨準備の増加で説明されるようなのですが。
 それではこの説明の仕方では大丈夫ですか?「経常収支の黒字は結果として、その金額分の外貨が増えた事を意味し、外貨が増えた事は資本の流出超となるので、資本収支赤字として示されるか、もしくは外貨準備が増える(マイナスの符号)事を示している。」日本銀行が出している入門国際収支の32ページ「事後的には経常収支黒字に見合う額の資本が海外に流出するか外貨準備の増加になることを示す」をちょっと変えた表現なんですけど。

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