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2011年5月

2011年5月29日 (日)

1-3月期1次QE-番外編①【東日本大震災関係の概念整理】-

今回のQEの公表と同時に、東日本大震災を受けて、SNAでどのように記述するのかというQ&Aを公表しました。

http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/otoiawase/qa16.html

内容は、書いてある通りなのですが、大所のみ、駆け足で触れてみようと思います。

まず、よくある質問の第1ですが、「仮設住宅」は、政府の中間消費(すなわち、政府最終消費支出になる)なのか、政府の固定資本形成なのかという点です。

これについては、SNAでは、長期間にわたって繰り返し生産に利用されるものを固定資産といい、その増分を固定資本形成として計上します。この長期間というのがなかなか難しいのですが、一応の目安があり「1年以上」ということになっています。

仮設住宅の耐用年数はどれくらいなのか微妙ですが、少なくとも、1年でダメになってしまうような施設ではないですので、固定資本形成として計上することになります。

そして災害救助法では、仮設住宅の設置主体は地方政府ですから、公的固定資本形成に含まれることになります。

そしてもう一点。瓦礫処理についてです。これは、政府の中間消費としました。SNA上、土地の造成は固定資本形成とすることとされていますので、瓦礫処理も土地の造成の一部だという意見もありそうですが、廃棄物処理として捉え、中間消費です。ただ、この部分は本当に微妙で、専門家の間でも意見が割れるような論点だと思います。

最後に援助物資や義援金についてなのですが、これは、それらの現物が移転されると同時に、基本的には「経常移転」となります。ただし、政府や非営利からの援助物資については、政府最終消費支出に含まれます。

というのは、これらの援助物資を配るという行為は、まさしく「政府や非営利の仕事」ですので、援助物資を配るという「政府サービス」(又は「非営利サービス」)を政府(又は非営利)が生産して、自己消費しているとみなされるわけです。

なんとなく分かりにくいかと思いますが、政府が、自衛隊や消防隊などによって災害救助活動を行っていますが、こういったものは、政府最終消費支出で違和感はないと思うのですが、援助物資を配るのもこれと同じようなものだと思っていただければ良いと思います。

このあたりは複雑になってきてしまいますが、一応、そういう整理になってしまうということで。。。

2011年5月27日 (金)

1-3月期1次QE(6)

さて、最後に2010(平成22)年度の数字が入りましたので、その話を。

2010年度については、実質は2.3%、名目は0.4%でした。名実ともに、リーマンショックがあった2008年度以来、3年ぶりのプラスです。

ただ、年度デフレーターは▲1.9%と、過去最低のマイナス幅です。これは、輸入デフレーターの上昇と同時に、民間最終消費支出デフレーターのマイナスが原因です。

民間最終消費支出については、価格下落の激しい耐久財が、2010年度は大幅に増えたので、これが利いているのだと思います。

今回の数字についてはこんなところです。

2011年5月26日 (木)

1-3月期1次QE(5)

次は公需です。

政府最終消費支出は実質前期比1.0%のプラスでした。政府最終消費支出では、東日本大震災に対応して、22年度中に予備費が使われましたし、地方公共団体でも補正予算が組まれており、それを反映しています。

一方、公的固定資本形成は▲1.3%のマイナスでした。

政府最終消費支出の方がウェートが大きいので、合わせて、公需は前期比0.6%、寄与度で0.1%となりました。

民需と公需を合計すると、内需は実質前期比寄与度で▲0.8%でした。

つづいて外需です。

これは、実質前期比寄与度が▲0.2%と2四半期連続でマイナスになりました。ただ、前期とは様相が異なり、輸出、輸入ともにプラス成長(実質前期比で輸出0.7%、輸入2.0%)だったものの、輸入の伸び率が高くてマイナスとなっています。

輸入については、名目の伸び率が7.5%と実質を大きく上回っています。この原因は、少し触れたように、原油価格の上昇が影響しています。

輸入品に占める原油のウェートは大きいので、どうしてもその価格変動が全体に与える影響は大きくなってしまいます。

GDPデフレーターについては、輸入デフレーターの上昇はマイナス方向に利いてきますので、これが、内需デフレーターはプラス0.2%なのに、GDPデフレーターが▲0.4%となった原因です。逆に言えば、十分に原油価格の上昇が価格転嫁できていないということにもなります。

(詳しい説明については、こちらをご参照ください。http://taro-sna.cocolog-nifty.com/blog/2010/05/post-1023.html

確か、先週の日曜日に、テレビで、GDPデフレーターがマイナスだから、日本の内需不足は深刻だというようなことは言っていた人を見たのですが、内需デフレーターはプラスだったことを考えると、その理屈は成り立ってるのかなぁ、と、疑問に思った記憶があります。

2011年5月25日 (水)

1-3月期1次QE(4)

続いて在庫品増加です。

実質寄与度▲0.5%でした。

これについては一点触れておかなければいけない点があります。1次QEでは、原材料在庫と仕掛品在庫が時系列モデルによる予測値ですが、いつもその前の2次QEで事前アナウンスをしています。2次QEの時点では、▲0.1%でした。

ですが、3月の東日本大震災後、民間の石油備蓄の義務を、70日から45日に引き下げるという情報が入ってきて、このストックを約35%も下げられたら、とんでもない動きが出るに違いないと思い、4月28日に上記のアナウンスを変更させてもらいました。この時は、本当に、2次QEで相当ずれるかもと思って、非常に不評を買うのは承知で、このギリギリのタイミングでアナウンスをすることにしたのです。

ところが、28日にふたを開けてみたら、実は、備蓄の義務は引き下げたのですが、実際の備蓄の取り崩しはそれほど起こっていなかったようなのです。そのため、実は、4月28日のアナウンスの時点でも、この2つの寄与度は▲0.1%でした。

私の自宅の近くでも、震災直後は、ガソリンスタンドも閉鎖していたくらいですが、今はまったく普通に営業していますので、市場でガソリンなどの石油不足になっているということは無いと思うのです。ですので、実際には、そこまで備蓄を取り崩さずとも、供給能力が回復したということなのだと思います。

民間エコノミストの方々は、「意味のない事前アナウンスの変更をなんでするんだ?」と疑問をお持ちの方もいたかと思うのですが、それは、上記の事情でして、決して悪意でやったわけではなく、統計メーカーの立場としても、どうなるか分からず必死だったという事情をお察しください。

引き続き、全体の話に戻ると、事前のアナウンスをしている部分以外がマイナスでして、結果として▲0.5%となりました。

結果として、民需としては▲1.2%と2四半期連続のマイナスとなりました。

2011年5月22日 (日)

1-3月期1次QE(3)

引き続き民間最終消費支出です。

プラス品目は、たばこ、野菜、ガス、その他の非アルコール飲料、パン及び穀物などです。これらはすべて非耐久財です。

たばこは、10-12月の反動とみることもできそうですが、その他の非アルコール飲料などは、ミネラルウォーターが含まれますし、ガスなどもカセットコンロのカセット部分などが入ってきます。こういった物の影響がはっきりとわかる、非常に分かりやすい結果となりました。

また、ガソリンや灯油などの価格上昇により、名目は▲0.5%と実質より伸び率が高くなり、形としてはデフレ脱却という形です。これには、価格が大幅に低下している耐久財が大きなマイナスとなったことも影響しています。

次は民間企業設備です。

実質前期比で▲0.9%でした。6四半期ぶりのマイナスです。

いつも言うことですが、2次QEで四半期別法人企業統計調査が入るので、それまでは良く分からないところがあります。

民間住宅は0.7%で、3四半期連続のプラスです。そして、この項目も民間最終消費支出と同じく、名目の伸び率が1.4%と実質よりも高くなりました。この原因も民間最終消費支出と同じく原油関係です。民間住宅は、建設なのですが、建設は原油や建設資材などのコスト積み上げによるものですので、どうしても、原油などが上がると影響が出てしまいます。

2011年5月20日 (金)

1-3月期1次QE(2)

まず冒頭に。

昨日、4-6月期は民間エコノミストでも意見が割れるのじゃないかと思っていたのですが、今日の新聞記事とか見ていると、民間エコノミストの間では、4-6月期もマイナス成長が続くという見方が多いみたいですね。。。

それにしても、まだ6月も終わってないのに、ある程度メドが出るなんて、みんな、スピード感が違いますね(笑)

(統計メーカーは、出た数字を組み合わせるという仕事なので、事前に予測するという仕事とは全く異なるため、ものすごく温度差を感じてしまいました(笑))

さて、本題に戻り、もう少し個別に見ていきます。

まずは内需です。

民間最終消費支出については、季節調整済前期比は実質で▲0.6%でした。寄与度では▲0.3%です。

前期に続いて2四半期連続のマイナスです。

形態別でみると、際立った特徴がありまして、

耐久財  ▲7.3%

半耐久財  0.6%

非耐久財  2.2%

サービス ▲0.9%

と、耐久財とサービスが大きくマイナスとなり、逆に、非耐久財は大きなプラスでした。

主な品目でみてみると、マイナスのなった品目は、テレビ、飲食サービス、自動車、レクレーション及びスポーツサービスなどです。

テレビは、エコポイント制度の変更(ポイントの半減)があった時なので、その影響が出ているという意見もあるようですね。また、自動車も、10-12月期で大きく下がったのに、更に下がっていますから、3月の操業停止の影響もあったのかもしれません。

飲食サービスというのは、レストランや居酒屋などの飲食業一般です。レクレーション及びスポーツサービスというのは、遊園地やスポーツ観戦、スポーツジムなどなのですが、こういったマイナスでした。確かに、3月にディズニーランドが操業停止などありましたので、こういったことの影響が積み重なったのかもしれません。

これらのマイナス品目は、すべて、耐久財とサービスです。

次回、引き続き、消費のプラスの品目についてみてみようと思います。

2011年5月19日 (木)

1-3月期1次QE(1)

本日1次QEを公表しました。

http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/sokuhou/sokuhou_top.html

1-3月期の実質季節調整済前期比は▲0.9%と2四半期連続のマイナスになりました。

内訳を見てみると、内需が▲0.8%、外需が▲0.2%となっており、内外需ともマイナスです。そして、内外需ともに、前期よりもマイナス幅を拡大しています。

内需の内訳をみてみますと、民間住宅、政府最終消費支出以外はすべてマイナスでした。

民間最終消費支出は▲0.6%、民間企業設備は▲0.9%、民間在庫品増加は寄与度で▲0.5%、公的固定資本形成は▲1.3%と言ったところです。一方で、プラスとしては、政府最終消費支出が1.0%、民間住宅が0.7%でした。

名目は、季節調整済前期比で▲1.3%でした。ですので、相変わらず名実逆転でして、GDPデフレーター(季節調整系列)の前期比は▲0.4%で、4四半期連続のマイナスだったのですが、今期のマイナスは、前期までとやや違う傾向が出ています。どういうことかというと、内需デフレーター(季節調整系列)は、前期比で0.2%でしたので、国内要因だけならプラスになっているということです。

それではマイナスの要因は何かというと、外需ということになります。もっとはっきり言ってしまえば、輸入デフレーターの上昇です。これは、原油価格の上昇が影響しています。このあたりについては、また追って書いてみようと思います。

QEの数字は、個別の基礎統計を組み合わせて計算しているだけなので、この中から、東日本大震災の影響がどれだけだったのかというようなことを抜き出すことはできません。ですので、今回の数字が震災の影響だったのかなどということは、正直いうと、正確にはわからないです。ただ、民間最終消費支出のマイナス要因の上位項目に、自動車や飲食サービスが含まれていることから、自動車工場の操業ストップや、お花見自粛などの外食控えなどの影響は出ているのではないかと思います。

4-6月期以降はどうなるのか、ますますわからないのですが、このあたりの予測については、民間エコノミストの間でも、意見が分かれるところではないかと思います。

詳細はまた、次回以降に。

2011年5月17日 (火)

ストックからフローへ(3)

続いて、質問とはちょっとずれますが、以下のような論点があると思います。

 ○「仮定1」を満たす場合は、団塊の世代から若者に金融資産をもらったら、民間最終消費支出が増えることになる。したがって、GDPが増えることになるのではないか?

これは正しいでしょうか?

いかにも、日本のGDPだと、単純にyesと言ってしまいそうですが、この部分も、支出側と生産側に分けて考えてみると良く分かると思いますので、その点だけ触れてみたいと思います。

まず、GDP(支出側)の構成項目は、

GDP(支出側)

 = 民間最終消費支出 + 民間住宅 + 民間企業設備 + 民間在庫品増加

  + 政府最終消費支出 + 公的固定資本形成 + 公的在庫品増加

  + 輸出 - 輸入

です。ここで、「民間最終消費支出」が増えると、GDP(支出側)が増えるように見えます。一方で、GDP(生産側)はどうでしょうか?

GDP(生産側)の構成項目は、

GDP(生産側) = 生産 - 中間投入

となります。ここで、「民間最終消費支出」が増えたときに、何が変化するでしょうか?もし、生産も増えず、中間投入も減らないのであれば、GDP(生産側)は増えないことになります。

これでは、生産側と支出側がずれるようにも見えます。いったい、何が起こっているのでしょうか?

つまり、「民間最終消費支出」が増えているのに、生産も、中間投入も変化がないのであれば、これはきっと、海外の製品を購入しているということなのではないでしょうか?その場合、支出側に入っている、「輸入」が増えることになります。そして、この時は、「民間最終消費支出」と「輸入」の増が打ち消しあって、GDP(支出側)も変化しません。

これにより、もし、「団塊世代の金融資産を若者に回せば、GDPが増える」と言っているのであれば、もう一つの大きな仮定を暗黙の上においていることになります。

 仮定2:若者世代が何か消費を増やすときに、輸入品を買うのではなく、国内の企業の生産物を買うに違いない。

 ※仮定2は、「国内の企業の生産物を、中間投入として使っている輸入品を買う」としても、一部(中間投入分だけ)は増加しますが、細かいので省略しました。

ということです。

これも微妙な仮定で、まあ、大半は国内の企業の生産物を購入するでしょうけど、輸入品を買う場合も少しはありそうな気がします。

というわけで、ここまで長々と書いてきましたが、これらの大きな仮定が語られないまま、印象の強い「団塊世代の資産を若者に」という部分だけが強調されて、広まってしまいっているような気がします。

経済の分析をする人は、こういった仮定の部分がどこまで正しそうか、分析をしてもらえると、非常にありがたいのですが。。。(笑)

2011年5月15日 (日)

ストックからフローへ(2)

(3)「団塊世代の貯蓄を若者に回せ」は、ストック・フローではどのように動くのですか?

という質問にも答える形で、前回の「仮定の話」についても触れてみようと思います。

まず、「団塊世代の貯蓄を若者に回せ」についてです。まず、この質問の『貯蓄』とSNAの『貯蓄』では言葉の意味が違うと思われますので、その点だけ補足しておきます。恐らく、この質問の『貯蓄』は、SNAでいう「資産」の意味だと思います。

というのは、SNAの貯蓄というのは、当該期における所得と消費支出の差ですから、フローの概念です。このフローの概念を回せというのは意味が分かりません。ですので、この貯蓄の積み重なった資産(特に金融資産)を若者に回せという趣旨だとして、以下話を進めます。

一応、以前の例に沿って、団塊世代の持っている現金(金融資産)100万円を、若者に贈与したとします。

SNAでは、団塊世代と若者世代では、まったく区別をしていませんから、資産を、若者世代に回したとしても、これだけでは何の影響も出ません。

○貸借対照表(期首=期末)

(資産)

 金融資産  100万円

  うち株式    0円

  計    100万円

(負債)

 正味資産  100万円

  計    100万円

のままです。フローには全く影響がありません。ただし、一方的に資産を渡した場合は、資本移転が計上されますので、実は、資本調達勘定において、次のような計上がされています。

○資本調達勘定‐実物取引

(資産の変動)

 純借入(+)/純借入(-)       0円

   計                 0円

(負債の変動)

 貯蓄                  0円

 資本移転(受取)      100万円

 (控除)資本移転(支払) 100万円

   計                 0円

○資本調達勘定‐金融取引

(資産の変動)

 現金・預金               0円

   計                0円

(負債の変動)

 純貸出(+)/純借入(-)(資金過不足) 0円

   計                0円

見事に、何の影響も出ていないことがお分かりいただけることかと思います。

ここで、団塊世代の貯蓄を若者に回せば、フローに影響が出ると言っている人は、きっと、次のような仮定を置いているのだと思います。すなわち、

 仮定1:若者世代が、団塊世代の金融資産をもらったら、『何か消費する』に違いない。そして、金融資産をあげた団塊世代の消費行動も変わらないに違いない。

ということです。この場合は、前回書いた通り、消費支出が増えますから、確かに、「ストック→フローに回」っています。

ただ、この仮定は、正しいのか正しくないのか微妙にわからない仮定です。というのは、若者がお金をもらって、新しく消費支出を増やす金額分と、団塊世代がお金をあげて、消費支出を減らす金額分で、どちらが大きいか良く分からないような気がするからです。

とはいえ、まあ、おばあちゃんからお年玉をもらった時に、自分でもすぐおもちゃに使ってしまっていましたから、ある程度は当たっているような気もしますが(笑)

2011年5月14日 (土)

ストックからフローへ

以前から書いてきたコメントに対して、時事的な面白い質問をいただきました。

内容は、最近良く書かれている、「家計資産を消費に回せ」とか「団塊世代の資産を若者世代に回せ」という提言に関するものです。

これらの話は、消費行動に対する分析が混じっているので、なかなか統計メーカーとしてはコメントはしにくいのですが、単純に、SNA上どのように計上されるのか、という観点からだけ、質問に答えてみようと思います。

まず、いただいた質問は以下の通りです。

(1)ストック(例家計資産)→フローに回せるのでしょうか、回せないのでしょうか。(以下略)

(2)家計が100万円、貯蓄を下ろし、新車を買ったとします。これはストック・フローでは、どのように扱われますか?

(3)「団塊世代の貯蓄を若者に回せ」は、ストック・フローではどのように動くのですか?

これについて、順番に考えてみようと思います。

最後に、私なりの意見も追記できたら、なお良いのですが、そこまで私の頭が回るかは分かりません(笑)

まず、

(1)ストック(例家計資産)→フローに回せるのでしょうか、回せないのでしょうか。

です。これは、実は、以前に四重記入について書いてみたのですが、それと関連してきます。そこで、同時に具体例として、

(2)家計が100万円、貯蓄を下ろし、新車を買ったとします。これはストック・フローでは、どのように扱われますか?

と同時に見てみましょう。

まず、当初の貸借対照表を見てみましょう。便宜的に、家計の資産は、「現金・預金」で100万円だけあることとしましょう。この時は、

○貸借対照表(期首)

(資産)

 金融資産  100万円

  うち株式    0円

  計    100万円

(負債)

 正味資産  100万円

  計    100万円

となります。

ここで、この金融資産のうち、預金を下ろして、車を消費支出するわけですので、預金を下ろすということの計上は、

○資本調達勘定‐金融取引

(資産の変動)

 現金・預金               ▲100万円

   計                ▲100万円

(負債の変動)

 純貸出(+)/純借入(-)(資金過不足) ▲100万円

   計                ▲100万円

となります。一方で、この100万円は、まるまる新車の購入に行きます。ですので、まずは、所得支出勘定において、

○所得支出勘定-所得の使用勘定

(支払)

 最終消費支出  100万円

 貯蓄     ▲100万円

   計        0円

(受取)

 可処分所得      0円

   計        0円

となりますので、資本調達勘定の現物部門は、

○資本調達勘定‐実物取引

(資産の変動)

 純借入(+)/純借入(-) ▲100万円

   計          ▲100万円

(負債の変動)

 貯蓄           ▲100万円

   計          ▲100万円

となります。そして、最後に期末の貸借対照表です。

○貸借対照表(期首)

(資産)

 金融資産     0円

  うち株式    0円

  計       0円

(負債)

 正味資産     0円

  計       0円

です。

これを見ていただきお分かりいただけますとおり、家計の金融資産を使って、新規に消費支出をしたら、

 ①家計の消費支出は増える

 ②同額だけ、家計の貯蓄がマイナス(貯蓄の取り崩し)となり、純借入(+)/純借入(-)も同額だけマイナスとなる

 ③家計の資産が同額だけ減少する

となります。

これが(2)の答えになります。

ただ、これに合わせて(1)の答えも言ってしまうと、『ストックをフローに回せるか』ではなく、『フローを(可処分所得の増加以上に)増やしたら、いずれかのストック(資産)を取り崩すことになるため、ストックが減ってしまう』ということになります。

つまり、流れとしては、順番が逆転しておりまして、フローの動きの結果がストックに溜まって出てくるわけですので、ストックをフローに回すというのは、実はあいまい性が残る、良く分からない言い方なのです。

恐らく、ストックをフローに回すというのは、間に重要な仮定がいくつかあり、それを省略して言っている話という気がしてなりません。

ですので、次回以降に、この点について、もう少し仮定の話も触れて考えてみようと思います。

2011年5月12日 (木)

四重記入(5)

少し、移転に話がそれすぎましたが、それでは、最後に現物移転、又は現金による移転があった場合の計上方法をそれぞれ見てみましょう。

はじめの例に戻って、5万円のパソコンで考えてみます。まず、ヤマダ電機が、奇特にも私にただでパソコンをくれたとした場合を考えてみましょう。(笑)

1

となりまして、見事に四重記入になります。

一方で、現金による移転にしましょう。今度は、もっと奇特にも、ヤマダ電機が5万円の現金を私にくれ、そのお金でヤマダ電機から5万円のパソコンを買ったものとしましょう。

この場合、実は、四重記入が2つ記録され、まず、現金の移転として、

2

となります。この後に、実際のパソコンの購入が記録され、

3

となるわけです。

※ 最後に一点だけ注意を。今回の例では、私の期末ストックとして、パソコンが計上されています。パソコンは、耐用年数が1年以上であれば、概念上は「固定資産」として計上されますが、家計が「固定資産」を持つことはSNAではありません。例え耐久財であったとしても、家計が購入した場合はその期で消費し尽くしてしまうことになっています。

  ただし、家計でも個人企業については、「固定資産」の計上はされますので、今回の例で記した「私」は、「個人企業」であるとでも思っていてくだされば幸いです。

2011年5月11日 (水)

四重記入(4)

では、前回まで記述した、四重記入を前提として、現物の移転取引があったときにどのように計上されるかを見てみようと思います。

と、その前に、まずは、移転とは何かというところからです。93SNAでは、

8.27. 移転は、ある制度単位が、対応物としてその見返りにいかなる財貨、サービスまたは資産をも受け取ることなしに、財貨、サービスまたは資産を他の単位に対して供給する取引として定義される。現金移転は、ある単位が他の単位に対していかなる対応物もなしに行なう通貨または通貨性預金の支払いからなる。現物移転は、やはりいかなる対応物もなしに行なう、現金以外の財貨または資産の所有物の移転か、あるいはサービスの供給からなる。

となっています。この記述は、多分正しいのだと思うのですが、私の感触としては、あまりしっくりきません。そこで、イレギュラーなのですが、SNAと整合性が取れている、IMFが作っている国際収支統計のマニュアル(Balance of Payments and International Investment Position Manual 以下、BPM6という)があるのですが、そちらの記述を引用してみようと思います。

英語になってしまうのですが、BPM6では、

12.7 A transfer is an entry that corresponds to the provision of good, service, financial asset, or other nonproduced asset by an institutional unit to another institutional unit where there is no corresponding return of an item of economic value.

と書いてあります。

あまり英語は得意ではないのですが、直訳調で書いてみると、

・「移転(transfer)」は、ある制度単位から他の制度単位に対する、財、サービス、金融資産、その他の非金融資産の提供ついて、当該提供に対応した経済的価値のリターンが無い場合において、当該提供に対する見合いとして行われる記載(entry)である。

という感じでしょうか。かえってわかりにくいかもしれないのですが、意味としては、

 ①何か、財とかサービス、お金とかを、他の制度部門(unit)に提供します。

 ②当然、その対価を受け取るべきなのですが、まったく受け取らない場合もあります。

 ③その時に、複式記入としては、当然、財とかサービスとかお金とかの提供と見合いで、リターンを記載しないといけないのですが、何も受け取っていないので記載するものがありません。

 ④そこで、その「何も対価を受け取っていません」ということの見合いとして、「移転」を記載します。

ということです。

こうやって書くとお分かりいただけるかと思うのですが、私の中の整理では、移転とは、

 ○財・サービスなどの一方的な提供があった時に、それとの見合いのやり取りが存在しない場合は、複式記入をするときに、記入するべき取引が存在しなくて、バランスが取れなくなる。

○そこで、そういう時に、一方的な提供の記載をするときに、バランスを取るために記載するのが「移転」である。

というように整理しています。

つまり、私の中では、「移転」は、むしろ、複式記入をするうえでバランスを取るための、調整項目であって、「移転」が主として取引に出てくるということは無い、ということなのではないかと思っているのです。

2011年5月10日 (火)

四重記入(3)

前回は、具体的な四重記入の記録方法を、具体例でみてみました。

今回は、まず、この四重記入についての93SNAの記述を見てみようと思います。

2.54. SNAは、経常勘定の、ある単位または部門の経済価値量を増大させるような取引があらわれる側に、源泉(resources)という用語を用いる。例えば、賃金・俸給は、それを受ける単位または部門によっては源泉である。源泉は、ならわしにより右側におかれる。勘定の左側は、ある単位または部門の経済価値量を減ずるような取引に関係しており、使途(uses)と名付けられる。前の例を続けると、賃金・俸給はそれを支払わなければならない単位または部門にとっては使徒である。

つまり、通常の取引において、何かしらの資産等の増大する取引を源泉と言うということですから、前回の例でいうと、私から見て、パソコンの購入は「源泉」になります。一方で、ヤマダ電機からみてパソコンの販売は「使途」になります。

続いて、

2.56. 蓄積勘定と貸借対照表は完全に統合されているので、蓄積勘定の右側は、負債・正味資産変動と呼ばれ、左側は資産変動と呼ばれる。金融手段の取引の場合には、負債変動は、しばしば負債(純)の発行といわれ、資産変動は金融資産(純)の取得と言われる。

これは、現金のやり取りなど、金融のストックの変動などについて記述しています。これによると、私から見て、現金の支払いは「金融資産(純)」のマイナスの取得、ヤマダ電機からみて現金の受け取りは「金融資産(純)」のプラスの取得となります。

※これが、万が一「掛け売り」の場合は、私は現金で支払わず、ヤマダ電機に借金をして、品物を入手したわけですから、「負債(純)」の発行として記録されます。

続いて、

2.57. ある単位または部門について、国民経済計算は、企業会計と同様に、複式記入原理を基礎にしている。各取引は、一度は源泉(あるいは負債変動)として、一度は使徒(あるいは資産変動)として、2回記録されなければならない。源泉あるいは負債変動として記録される取引の合計と、使途あるいは資産変動として記録される取引の合計と、使途あるいは資産変動として記録される取引の合計は、等しくなければならない。こうして、諸勘定の整合性のチェックが可能となるのである。取引でない経済フローは、その対応項目を正味資産変動として直接に持つという構成になっている。(以下略)

ということです。つまり、当事者間の財・サービスなどのやり取りと、その裏側の対価のお金などのやり取りが、両建てで、取引の対象の2者に記録されるということを書いてあるわけです。

※なお、輸出入については、海外との取引であり、海外のことは計上しませんから、SNAでも複式記入になります。

2011年5月 8日 (日)

四重記入(2)

前回は、複式記入について書いてみました。ただ、SNAは複式記入ではなく、四重記入と言われます。何か大きな違いがあるかというと、実はたいした話ではなく、「企業会計は一つの企業(又は連結企業)をとらえればいいのですが、SNAは一国全体をとらえようとするので、何かの取引があるときに、モノの売り手と買い手の両者を記入することになるので、複式×2で四重記入になる」というだけのことです。

例を挙げてみましょう。

前回の例を少し拡充して、私が、現金を10万円持っており、5万円で、パソコンを買ったところは同じですが、そのパソコンをヤマダ電機で買ったとします。ヤマダ電機は他にもいっぱい持っているとは思うのですが、パソコンはこの5万円のパソコン10台だけ持っていたものとしましょう。

このとき、どういう記述になるかというと、

1

となります。つまり、4つの記入がありますから、四重記入になります。

ちなみに、今の例で、

2_2 

の点線部分は、実際の現金やパソコンの『動き』を示しています。これが、SNAのフロー編の部分になります。

一方、

3_3   

の点線部分は、期末の実際の現金やパソコンの『資産量』を示しています。これが、SNAのストック編(特に、期末貸借対照表)の部分になります。

2011年5月 7日 (土)

四重記入

実際に、推計業務をしていると、いろいろ考えることがあります。特に、最近、『現物』の「移転取引」についての扱いを考えることがあって、それを整理していたら大変面白く、かつ勉強になりました。

私自身、なかなか、この『現物』の「移転取引」の計上方法を整理するのに苦労したのですが、なぜ、こんなに苦労したのか考えると、SNAの基本の一つである、勘定の『記入方式』が頭に入っていなかったからなのだと気づきました。

というわけで、今回は、SNAの各勘定における記入の原則について考えてみようと思います。

SNAの記入方法の原則は、「四重記入」と言われています。これの意味が私自身良く分かっていなかったので、現物移転などについて、非常に混乱してしまっていました。まず、その四重記入から考えてみようと思います。

まず、その前提として、「複式記入」から。

企業会計では、複式記入を原則としています。つまり、何かを買ったとしたときに、お金で払ったとしたら、そのお金の減少と、買った物品の増加が同時に記入されるわけです。

例を挙げてみましょう。

私が、現金を10万円持っているとします。この時、5万円で、パソコンを買ったとします。すると、どのように記録されるかというと、

現金

(期首手持ち)10万円 - (代金支払い)5万円 = (期末手持ち)5万円

パソコン

(期首手持ち)0円 + (購入)5万円 = (期末手持ち)5万円

と、買ったパソコンと、使った現金が両方記録されます。これが複式記入です。

イメージとしては、実際に買った物(財・サービス)と、その購入のための経済価値(SNAでは源泉(resources)と言います)の動きを、両方記録するということになります。

2011年5月 5日 (木)

固定資本形成について(5)

前回は、現物の資本移転と、現金の資本移転で、『移転元』(前回の例でいうと、制度部門A)の「純貸出(+)/純借入(‐)」に違いが出てくることまで考えました。今回は、その理由を考えてみようと思います。

まず、原点に立ち返って、「純貸出(+)/純借入(‐)」とは何だったか考えてみましょう。

我が国の国民経済計算の解説を見てみますと、

純貸出(+)/純借入(-)Net Lending / Net Borrowing

  実物面において、投資と貯蓄は経済全体をとれば一致するが、部門別に見ると一致しないのが普通である(例えば、家計は貯蓄超過主体である等)。このような投資と貯蓄の差は、一般にISバランスと呼ばれる。これに資本移転の受払を加えたものが「純貸出(+)/純借入(-)」であり、資本蓄積の原資と非金融資産の取得とのバランスを表している。

(以下略)

とあります。このうち、下線の部分にご注目ください。つまり、『資本蓄積の原資』と『非金融資産の取得』との関係を示すのが、「純貸出(+)/純借入(‐)」と言っているわけです。現物の資本移転だったCase1と現金の資本移転だったCase2-2では、何が違うかというと、「もともと存在していた固定資産を移転しただけで、新たな固定資本形成は行われていない」という点と「資本移転先で新たな固定資本形成が行われた」という点です。

こうやって考えると、固定資本形成が行われていないCase1において、「『資本蓄積の原資』と『非金融資産の取得』との関係」を示す「純貸出(+)/純借入(‐)」が動かないのは当然と言えば当然です。

逆に、当初私が誤解していたように「二重計上だから、資本移転を計上しないで良い」ということになると、Case1の資本調達勘定(実物)は、

制度部門Aの資本調達勘定(実物)

(借方)

総固定資本形成     ▲10億円

純借入(+)/純貸出(‐)▲10億円

(貸方)

貯蓄(純)         0

資本移転(受取)      0

(控除)資本移転(支払)    0

制度部門Bの資本調達勘定(実物)

(借方)

総固定資本形成      10億円

純借入(+)/純貸出(‐) 10億円

(貸方)

貯蓄(純)          0

資本移転(受取)        0

(控除)資本移転(支払)   0

となってしまい、移転をしただけで、「純貸出(+)/純借入(‐)」が動くとともに、金融取引と「純貸出(+)/純借入(‐)」が異なってしまいます。こういうわけで、現物移転の場合は、総固定資本形成にも資本移転にも両方計上するのであって、何も二重計上でもなんでもないわけです。

本スジについては以上なのですが、ここまで書いていて少し個人的に思ったことを1点だけ。

総固定資本形成は、「GDP(支出側)」の構成項目の一つです。そうすると、制度部門間で、一方的に既存の固定資産を移転しまくると、移転先の部門の「GDP(支出側)」が増え、移転元の部門の「GDP(支出側)」が減ってしまいかねません。でも、GDPって、生み出した付加価値ですよね?そんな現物資本移転の有無で、付加価値の大小が変わるのなんて絶対におかしいです。

だから、制度部門別の「GDP(支出側)」というものは存在しなくて、産業別のGDPというのは生産側でしか作られないんだなと、妙に納得したわけです。

この辺も、何度も書いていますが「日本は支出側がメインすぎる」ということの弊害なんだろうなと思ってしまいます。

2011年5月 1日 (日)

固定資本形成について(4)

ここまで準備をした上で、現金による資本移転がどのように計上されるか考えてみましょう。

Case2 制度部門Aから制度部門Bに、固定資本形成のための費用として現金10億円を無償で譲渡した。

まず、実物取引から。

制度部門Aの資本調達勘定(実物)

(借方)

総固定資本形成         0

純借入(+)/純貸出(‐) ▲10億円

(貸方)

貯蓄(純)           0

資本移転(受取)        0

(控除)資本移転(支払)   10億円

制度部門Bの資本調達勘定(実物)

(借方)

総固定資本形成          0

純借入(+)/純貸出(‐) 10億円

(貸方)

貯蓄(純)           0

資本移転(受取)      10億円

(控除)資本移転(支払)    0

です。一方で、金融取引は、

制度部門Aの資本調達勘定(金融)

(貸方)

現金・預金        ▲10億円

貸出              0

その他の金融資産        0

(借方)

純貸出(+)/純借入(‐) ▲10億円

借入              0

その他の負債          0

制度部門Bの資本調達勘定(金融)

(貸方)

現金・預金         10億円

貸出              0

その他の金融資産        0

(借方)

純貸出(+)/純借入(‐)   10億円

借入               0

その他の負債          0

ここでも、制度部門A,Bともに、実物と金融で「純貸出(+)/純借入(‐)」が同じ額になっています。

ただ、これだけだと、資本移転でもなんでもない(お金をもらったのに、それが固定資本形成とつながっていない)ので、少し加えて、こういうケースについて考えてみましょう。

Case2-2 制度部門Bは10億円相当の自社ビルを建設した。そして、その代金は、制度部門Aが負担した。

この場合は、実物取引は

制度部門Aの資本調達勘定(実物)

(借方)

総固定資本形成         0

純借入(+)/純貸出(‐) ▲10億円

(貸方)

貯蓄(純)           0

資本移転(受取)        0

(控除)資本移転(支払)   10億円

制度部門Bの資本調達勘定(実物)

(借方)

総固定資本形成       10億円

純借入(+)/純貸出(‐)   0

(貸方)

貯蓄(純)           0

資本移転(受取)      10億円

(控除)資本移転(支払)    0

でして、一方で、金融取引は、

制度部門Aの資本調達勘定(金融)

(貸方)

現金・預金        ▲10億円

貸出              0

その他の金融資産        0

(借方)

純貸出(+)/純借入(‐) ▲10億円

借入              0

その他の負債          0

制度部門Bの資本調達勘定(金融)

(貸方)

現金・預金            0

貸出              0

その他の金融資産        0

(借方)

純貸出(+)/純借入(‐)      0

借入               0

その他の負債          0

となります。ここでも、制度部門A,Bともに、実物と金融で「純貸出(+)/純借入(‐)」が同じ額になっていることがわかります。

ここまでの2つのCaseを比べてみて、どのような違いがあるのか考えてみたいと思います。

Case1Case2-2ともに、10億円の固定資本形成があった制度部門Bの計上は変わりません。一方で、制度部門Aにおいては、Case1では「純貸出(+)/純借入(‐)」は0なのに、Case2-2では、「純貸出(+)/純借入(‐)」が▲10億円となりました。どちらも資産価値10億円のものを移転しただけなのに、なんでこのような違いが出てくるのでしょうか?

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