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2010年8月

2010年8月31日 (火)

政府最終消費支出の減耗(2)

この質問に対する説明をするときにいつも思うのは、やはり、「日本のSNAは支出側がメインでありすぎる」ということです。

とまあ、感想は置いておいて、具体的に考えてみたいと思います。

まず、GDP(支出側)とはいったい何でしょうか?それは、「一国内で生み出された付加価値が、どこに消費されたか」というものをみるためのものです。

ここで注意しなければいけないのは、「付加価値」であって「生産物」ではない点です。すなわち、「生産物」の中には国内で「中間消費」されているものもあるでしょうが、そういったものは、「付加価値」の増加にはつながりませんから、GDP(支出側)には出てきません。

さて、そうすると、GDP(支出側)は、一国で生み出された付加価値が、消費や設備投資に配分されている様子を示しているものであるということが言えると思います。このとき、設備投資に配分されたものの一部が「減耗」するかもしれませんが、別に支出側の概念から見ると、「作った付加価値がどこに配分されたか」というだけの話なので、配分した先で減耗してもしなくても、数値には影響しないわけです。(すなわち、グロスであるのが適切とうことになります。)

この点は、政府最終消費支出に配分されていようと、公的固定資本形成に配分されていようと同じです。

では、ここで、その配分された付加価値の「価値」をどのように測るかということを考えて見ましょう。基本的には、市場価格になります。ばくっというと「いくらで売買したか」ということです。

ただ、政府最終消費支出については、以前もご説明しましたが、「政府が生み出したサービスのうち、家計や企業から受け取った対価(これはものすごく安い)では、まかなえなかった部分について、政府が自ら自己消費していると擬制している」ものです。そして、この政府の自己消費部分については、市場価格が分からない(というか存在しない)ので、どうするかというと、「いくらかかったか」という観点から計算するのです。

そのいくらかかったか、という計算は、結局のところ生産側(というか分配側)と同じで、

雇用者報酬 + 中間投入 + 生・輸税 + 固定資本減耗

となるわけです。これに「現物」部分を加え、商品・非商品販売を控除したものが、政府最終消費支出です。

つまり、「政府最終消費支出に入っているように見える固定資本減耗は、市場評価ができないものについて、『いくらかかったか?』を計算している」だけであって、政府最終消費支出自体は、「生み出された付加価値」の配分ということには違いがありません。つまり、見る方向が違うというだけで、2重計上でも何でも無いんです。

2010年8月29日 (日)

政府最終消費支出の減耗

更新が遅れている間に、いろいろ面白い質問がありました。

これは、外部(某中央銀行の担当者)からの質問だったのですが、

政府最終消費支出の推計方法は、

政府最終消費支出 = 雇用者報酬 + 中間投入 + 生・輸税 + 固定資本減耗

          + 現物社会給付 + 現物社会移転 - 商品・非商品販売

となる。そして、GDP(支出側)は、

GDP(支出側)= 民間最終消費支出 + 民間住宅投資 + 民間企業設備 

        + 民間在庫品増加 + 政府最終消費支出 + 公的固定資本形成 

        + 輸出 - 輸入

となる。このとき公的固定資本形成は固定資本減耗を含むので、GDP(支出側)には、政府の固定資本減耗が2重計上になっていないか?

というものです。どういう答えになるか想像がつきますでしょうか?

なお、事前に言っておきますと、「政府最終消費支出の計算式の中に固定資本減耗が入っている」というのも事実ですし、公的固定資本形成が(粗(グロス))で、固定資本減耗を含んでいる(というか、除いていない)というのも事実です。

2010年8月28日 (土)

連鎖の開差

なかなか暇がなく久々の更新です。

直前に連鎖について書いたので、その関係でひとつだけ。

4-6月期1次QEを受けて、民間エコノミストの方々がコメントを書いてくださっていて、その中で『???』というものがあったので以下指摘を。

某社のレポートで、

ただし、本日発表された第2四半期GDP第1次速報の下振れは、弱さが過大評価されている面もある。(中略)第2に、開差の縮小がGDP(前期比年率)を0.6%ポイント押し下げている。開差の縮小要因を除くと、実勢は+1.0%ということになる。(後略)

というものがありました。非常に驚いてしまいました。

以前に連鎖デフレーターについてご説明しましたときにも書きましたけど、「開差」は、連鎖の場合加法整合性が成り立たないから、個別項目を足したものとの差を「開差」として出しているわけですけれども、「開差」そのものはGDPの伸び率にはまったく影響しません。なので、こういう間違いを書かれると非常にびっくりします。

そのときに、連鎖の実額はあまり意味がない、と申し上げたのに、その実額部分のしかも「開差」を持ってきて、それがGDPの伸び率に影響を与えているなどと言う解説は、なんとコメントしたらいいのか???と悩んでしまいます。

また、寄与度についても、以前ご説明したとおり、「1年前を基準年とした1年前の連鎖実質値」という形になっているので、この場合は開差は発生しません。(四半期の場合は厳密には違う面もあるんですが、ここで問題になるようなレベルのものではありません。具体的な説明は、http://taro-sna.cocolog-nifty.com/blog/2010/08/post-d210.htmlのとおり。)

予測よりも低かったため、好意的に分かっていて書いていただいたのかもしれませんが、こういう誤解は、なんだかなぁ、と思ってしまいます。なかなか現場のことは分かっていただけませんが。。。

2010年8月22日 (日)

4-6月期1次QE(5)

授業料無償化の影響です。考え方は(http://taro-sna.cocolog-nifty.com/blog/2010/05/post-6c51.html)の通りですが、大雑把に言って、民間最終消費支出から政府最終消費支出に、無償化分が移ることになります。

※なお、この話のときは「支出」は落とさない方が良いと思います。というのは、高校授業サービスのうち、授業料など家計が支払う部分以外については、「個別的非市場財・サービスの移転」というものになるのですが、これは「現実最終消費」と言う概念で見たときには、民間の「現実最終消費」に入ってしまうので、ここは一番区別しなければいけないところになります。この、「現実」と「支出」の区別は、93SNAの大きな特徴の一つです。(詳細は、http://taro-sna.cocolog-nifty.com/blog/2010/07/post-39b9.html あたりで。。。)

文科省の資料を見ると、

・公立高等学校授業料不徴収交付金 238,677,009千円

・高等学校等就学支援金交付金   154,186,064千円

となっていますから、大まかにいって、このうち公立の部分が民間最終消費支出から政府最終消費支出に移ったと考えていただいてよいかと思います。

なお、「高等学校等就学支援金交付金」の部分は、主に私立高等学校の部分ですが、こちらは、同じ民間最終消費支出の中の、家計最終消費支出から対家計民間非営利団体最終消費支出に移るだけですので、民間最終消費支出には影響はありません。

続いてデフレーターなのですが、まず、GDPデフレーターは、民間最終消費支出(CP)、政府最終消費支出(CG)とすると、

5

ですから、CPとCGの間で名目値、実質値が動こうが動くまいが、GDPデフレーターは変わりません。

さて、一番誤解があるのが、民間最終消費支出デフレーターと政府最終消費支出デフレーターに影響があるかという点です。

ここで、一番誤解されていると思われる点は、

『公立高校授業料のデフレーターは、SNAでは変わらない』

と言う点です。CPIは家計の支出しか見てませんから下がるのですが、SNAでは、高校授業サービスは、もともと、家計と政府が両方で分担して対価を支払っていて、今回の場合は、その負担割合が変わるだけですから、両者が支払う額の合計は変わりません。ということは、デフレーターはSNAでは変わりません。

これを前提として言うと、

2   

だったのが、

1_3

になるわけですから、CPのデフレーターと公立高等学校のデフレーターの大小関係によって、影響は出てくるわけです。といっても、前も言いましたが、公立高校授業料は民間最終消費支出の0.1%未満ですから、その程度のウェートが動いても、デフレーターへの影響は微々たるものです。(実際、0.01%とか0.02%とかその程度です。。。)

同じくCGについては、

3  

だったのが、

4

となるわけですから、CGのデフレーターと公立高等学校のデフレーターの大小関係によって、影響は出てくるわけです。これも、公立高校授業料の割合は、民間最終消費支出より政府最終消費支出の方が小さいとはいえ、0.3%未満ですから、同じく、デフレーターへの影響は微々たるものです。(こちらは、0.03%とか0.04%とかその程度です。。。)

方向性だけはお伝えすると、公立高校授業料の個別デフレーターの方が、CP、CGのデフレーターのいずれよりも大きいので、マイナスになるCPは下がり、プラスになるCGは上がります、といっても、コンマ2桁の%という単位ですが。。。

というわけで、基本的に、授業料無償化については、SNA上は、デフレーターにもGDPにも直接的には影響はしてきません。

2010年8月20日 (金)

4-6月期1次QE(4)

外需です。

これは、実質前期比寄与度が0.3%のプラスとなっています。内需がマイナスでしたが、外需が牽引して、プラスにもってきたという形です。

外需の内訳を見てみると、輸出は実質前期比で5.9%、名目前期比で5.4%でした。輸入は、実質前期比で4.3%、名目前期比で6.3%でした。輸入の名目前期比が高いです。これは、前にも説明しましたが、石炭や鉄鉱石などの資源価格の影響です。

輸出のプラスの影響は、建設機材や自動車などです。輸入については、パソコンや携帯電話などです。通関統計を見ると、アメリカからの輸入が増えてるのですが、品目があまり浮かんできません。あまり、パソコンや携帯電話を輸入しているとも思えないのですが。。。

さて、22年度へのゲタは、実質が1.3%、名目が1.1%となり、実質が少し下がりました。(1-3月期2次QEでは、実質1.5%、名目1.1%)

これは、主に、実質の1-3月期がやや下方改定となったため、傾斜が弱くなったことによるものです。

あと、多くの記者さんから、中国のGDPとの比較をしたい、との要望が出てきていました。これについては、技術的な観点からの説明が必要だと思っています。

年の途中のある期だけを取り出して比較することは、純粋に技術的な話として、非常に問題があります。つまり、各国によって季節性が異なり、例えば、例年10-12月期にものすごく成長率が高い国と、例年4-6月期にすごく成長率が高い国を比較するときに、4-6月期だけ抜き出して比較したり、1-6月期だけで比較したら、後者の国の方が高くなってしまいますよね。でも、一年経ってみたら、実は前者の国が高かったです、とかなるわけです。

でも、年の途中で比較することができないわけではありません。それが、「季節調整」というもので、我が国でも「季節調整値」を公表しています。それ同士をドルベースで比較するのであれば、まだ分かります。ただ、中国は「季節調整値」を公表していないので、比較のしようがないのです。

こういう事情があるということだけはご理解いただきたいところです。

ですので、多くの記事で中国との比較が書かれていますが、良心的な記者さんは、きちんと「原系列同士なので厳密な意味での比較はできないが」などの注意喚起してくれていると思うのですが、それすらしてくれないのは、もはや、なんと言っていいのやら、と言う感じです。今回は、特に、海外の記事でそういうものが多かった気がします。

2010年8月19日 (木)

4-6月期1次QE(3)

引き続き内需ですが、次は民間企業設備投資です。

実質前期比で0.1%でした。3期連続のプラスです。

いつも言うことですが、2次QEでは四半期別法人企業統計調査を入れての再推計となります。なお、今回から、需要側の動きの仮置きの方法を変更しましたので、以前よりは2次QEのときの法季に近い数字となっているはずです(笑)。

続いて在庫品増加です。

実質▲0.2%でした。ご存知のとおり、1次QEでは、製品在庫と仕掛品在庫が時系列モデルによる予測値なのですが、前回の2次QEでお知らせしていたその予測値が▲0.2%でして、そのままの数字となりました。

また、名目が▲0.6%と、実質より相当低くなっています。これは、前回の1-3の1次QEでも少しお話しましたが、石油製品の価格が上がったことが影響しています。

ただ、1-3は、その価格が上がった石油製品の在庫が積み増されたので、名目が高くなったのですが、4-6は在庫が取り崩されたので、名目が低くなりました。4月に寒くて灯油の消費が増えたというのと整合的な結果です。

在庫によるデフレーターの変化は、ただ単に最終消費支出や設備投資に回るまでのバッファーの効果があるので、価格転嫁し切れなければ、結局影響を後ろ回しにするだけということになるのですが、今回は、それが非常にはっきりと出てしまいました。今期、GDPデフレーターの前期比が▲1.0になったことに、これも大きく影響しています。

なお、在庫も、2次QEで四半期別法人企業統計調査を入れて再推計します。

すべて合計して、民需は▲0.1でした。

次は公需です。

政府最終消費支出は実質前期比0.2%のプラス、一方、公的固定資本形成は▲3.4%のマイナスでした。やや公的固定資本形成のマイナスが強く、公需は寄与度▲0.1でした。

民需と公需を合計すると、内需は実質前期比寄与度で▲0.2%でした。3四半期ぶりのマイナスとなっています。

2010年8月18日 (水)

4-6月期1次QE(2)

もう少し個別に見ていきます。

まずは内需です。

消費については、季節調整済前期比は実質で0.1でした。形態別には、サービス、非耐久財はプラスながらも、その他がマイナス、特に、今まで政策効果が出ていたと推測されていた耐久財が▲1.3%とマイナスになりました。

プラスの要因としては、液体燃料、電気代、ガスなどでした。液体燃料とは具体的には灯油です。なんでこの時期、こんなに光熱費が高いんだろうと思って、気象庁の4月の天候を見てみました。(http://www.jma.go.jp/jma/press/1005/06a/tenko1004.html

ここ暫らく異常に暑かったので忘れてましたが、4月って、関東地方でも雪が降ってましたよね。。。

なので、4月になってもストーブなんかをつけていたんでしょう。そういうわけで、光熱費がプラス要因になっています。

一方で、テレビや自動車などが、マイナス要因となっています。要因については、いろいろ取りざたされています。例えば、「エコポイントの対象商品の基準を変えたから、駆け込みが1-3にあった反動だ」とかいう説があり、それも確かに影響しているかもしれません。

一方、自動車についてもマイナス要因でした。9月までが補助金対象期間ですから、7-9には影響が出るのでしょうか???

なお、高校授業料無償化の影響で、今まで民間最終消費支出に入っていた「国公立」の高校授業料については、政府最終消費支出に移るため、その影響は出ています。とはいっても、GDPの総額には影響しないし、また、民間最終消費支出の中でも0.1%未満ですから、まあ、その影響は微々たるものです。

また、今回は、国内家計最終消費支出が前期比でマイナスなのに、家計最終消費支出はプラスになっています。つまり、居住者家計の海外での直接購入(すなわち海外旅行)が増えているのですが、この辺のことは、長い説明になるので、どこかでじっくりと説明したいと思います。

次は住宅です。

実質前期比で▲1.3%と再びマイナスになってしまいました。

要因の説明はなかなか難しいのですが、基礎統計の住宅着工統計でも季節調整をかけると今期はマイナスになってしまうので、それが反映されているといってよいかと思います。といっても良く分からないと思いますので、もっと細かく説明すると、住宅については、過去から1-3は比較的低く、4-6、7-9と高くなるような季節性があったんです。ただ、ここ2年くらいはずっと下がっていて、季節性も良く分からなくなっているのですが、今回は、1-3と4-6がほぼ同じくらいの水準だったので、季節調整をかけたらマイナスになってしまったというのが、正確な話です。ですので、住宅着工統計でも、季節調整をかけるとマイナスになってしまうようなのです。

2010年8月17日 (火)

4-6月期1次QE(1)

本日1次QEを公表しました。

http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/toukei.html#qe

4-6月期の実質季節調整済前期比は0.1%とわずかながらプラスになりました。これで、3四半期連続のプラスです。

内訳を見てみると、輸出は5.9%、輸入は4.3%で、併せて外需が0.3%でした。他に、民間企業設備が0.5%、政府最終消費支出が0.2%、民間最終消費支出が0.0%とここまでがプラス項目です。

一方、マイナス項目としては、民間在庫品増加が実質寄与度で▲0.2%、公的固定資本形成が▲3.4%、民間住宅が▲1.3%、公的在庫品増加が▲0.0%でした。

内需についてまとめてみると、3四半期ぶりのマイナスで、▲0.2%でした。外需が0.3%でしたから、合計してGDPは0.1%という形です。

一方で、名目は季節調整済前期比で▲0.9%でしたので、GDPデフレーター(季節調整系列)の前期比は、▲1.0%と再びマイナスになりました。

今回は、マイナスの項目も多く、また、プラスになっているものでも、民間最終消費支出が0.0%というところです。

詳細はまた説明しますが、民間最終消費支出の4形態を見てみると、

耐久財  ▲1.3

半耐久財 ▲0.3

非耐久財  0.1

サービス  0.1

となりました。今まで高い成長率を誇っていた耐久財が今回はマイナスになってしまいました。報道でも書かれているように、テレビなどがマイナス要因になっているので、「エコポイントの対象商品の切り替えの反動があるのではないか?」とかとかいろいろ言われているようですが、そういった影響もあるのかもしれません。

もう一つトピックとしてあげると、輸入の名目がかなり高い数字となっています。具体的には、

輸入 名目6.3% 実質4.3

でした。つまり、デフレーターはプラスで2.0%ということです。

以前、どこかで書きましたが(http://taro-sna.cocolog-nifty.com/blog/2010/05/post-1023.html)、輸入のデフレーターがプラスになると、GDPデフレーターは押し下げられますので、これがGDPデフレーター前期比の▲1.0%に効いてきています。

何でこんなに輸入のデフレーターが上がるんだろうと思って、過去の新聞記事を見ていたら、4月から、鉄鉱石の輸入価格が前年比で92%値上げ、石炭価格が同じく55%値上げとでていました。前年比92%ではなく、前年比で192%ですから、これはすごいですよね。。。

この影響がそのままでてきたという感じです。

なお、輸入デフレーターが大きく上がっているため、外需は、名目では▲0.1%と、6四半期ぶり、1年半ぶりにマイナスとなってしまいました。

あと、4月から高校授業料が無償化になっていて、その影響でGDPデフレーターが下がっていると勘違いしている人もいますが、それは間違いです。これについては過去にここで書いたとおりですが(http://taro-sna.cocolog-nifty.com/blog/2010/05/post-6c51.html)、GDPデフレーターはまったく影響を受けませんし、民間最終消費支出デフレーター、政府最終消費支出デフレーターもほとんど影響を受けません。(受けたとしても無視できるレベルです。この点も追々説明してまいります。)

2010年8月15日 (日)

連鎖デフレーター(10)

ここまで、パーシェ型連鎖指数の特徴を説明してきましたが、まとめるとこんな感じになります。

 ○加法バイアスが解消される。したがって、基準改定で基準年を変えた場合の、改定幅は、固定よりは小さくなる。

 ○加法整合性が成立しない。

 ○ある年の価格変化の異常値が、後年のデフレーターにも影響を及ぼす。(ドリフトの問題)

これに加えて、実は、あまり語られてないのですが、もうひとつ問題があります。それは、

○連鎖指数の場合、実額にほとんど意味はない。

ということです。連鎖方式は、それぞれの項目の伸び率(前年比、前期比)のみにしか意味は無く、実額そのものにはもはや意味はありません。

あまりイメージがわかないかと思いますので、具体的な数字を用いて説明してみましょう。

次のような例を挙げてみます。全部で、4つの項目があるとします。そのうち、3つのみを足したものと、4つ足したもので、大小関係を比べて見ます。

まず、連鎖統合値は、

1  

で計算されますから、3項目の連鎖統合値と4項目の連鎖統合値は、それぞれ、

2

3

となります。ここで、第4番目の項目の価格と数量が

4

5  

となる、すなわち、価格が常に約7%(=1/1.07倍)づつ減って行き、数量は7%づつ増えていくような項目であると仮定します。それ以外の項目については

6

7

と一定とします。また

8

9 

とします。

このとき、3項目の合計は、

10_2 

4項目の合計は、0年が、

11

ですから、

12

13 

となります。ここで、

14

ですから

15

となります。この場合では、t≧18となると、

16

となります。

長々と計算しましたが、つまり、基準年から18年離れると、『4項目合計したものより、3項目合計したものの方が大きくなる』ということです。もちろん、それぞれの個別項目は『マイナスではない』のにです。

これが、「連鎖統合の実額にほとんど意味はない」ということの理由になります。

つまりまとめると、

〈メリット〉

 ○加法バイアスが解消される。したがって、基準改定で基準年を変えた場合の、改定幅は、固定よりは小さくなる。

〈デメリット〉

 ○加法整合性が成立しない。

 ○ある年の価格変化の異常値が、後年のデフレーターにも影響を及ぼす。(ドリフトの問題)

○連鎖指数の場合、実額にほとんど意味はない。

といったところでしょうか。

連鎖についてはこんなところです。

2010年8月13日 (金)

連鎖デフレーター(9)

連鎖デフレーターには、加法整合性のほかに、もうひとつ欠点があります。それは、ある年に大きく価格変化があると、それが翌年度以降に影響していしまうという問題です。(いわゆる、ドリフト問題といいます。)

計算式を見るだけでも、

1

ですから、例えば、s年の価格が、s-1年と比べて大幅に伸びる(例えば10倍)とかなったら、その影響は、t年までずっとのこることになります。一方、固定であれば、s年の価格変動はt年には影響しません。

例えば、t=1、・・・10、i=1,2、で考えて、

2

それ以外の

3

とします。このとき、

4

となります。10年の固定デフレーターは当然1ですから、5年の価格と数量の動きが、後年度にも影響していることがわかります。

2010年8月12日 (木)

連鎖デフレーター(8)

はじめに説明したように、当年を基準とした場合でも、当然、加法整合性は成立します。もっと分かりやすくいえば、「当年を基準とした場合」は、名目値と実質値が一致します。それはすなわち、

1

ということです。この場合、加法整合性が成立することは容易に分かると思います。

少し話が外れますが、連鎖実質の「寄与度計算」は、この「当年を基準年にした場合は加法整合性が成立する」ということを利用しています。

具体的に、連鎖実質の寄与度計算式をお示ししようと思います。i項目についての寄与度は、

2

となります。固定の寄与度は、

3

ですから、ウェートの部分である、第1項が異なることが分かります。これを見てみると、具体的には、固定は、1年前の実質値、連鎖は、1年前を基準年とした1年前の連鎖実質値(=「1年前の名目値」)をウェートとしていることが分かります。

連鎖の式についてどういうことか考えてみるために、項目(i=1,2,…,n)をすべて加えてみると、

4

ですから、

5

となります。そして、これは、前年を基準とした場合のGDPの伸び率に等しいことが分かります。さらにいえば、連鎖は、伸び率については、どの年を基準としても変わりませんから、基準年がいつであろうと、GDPの伸び率と等しくなります。

したがって、寄与度については、開差がないのです。

※疑問に思われていた方も結構いらっしゃたのではないでしょうか?

2010年8月 8日 (日)

在外事業所との取引(2)

昨日の話について、何が面白いのかということを説明するために、昨日と別の見方をしてみましょう。

GDPとは国内総生産ですから、もともとは『生産』の概念です。で、生産の側から国内総生産を定義すると、

 GDP = 産出(=生産) - 中間投入

となります。中間投入とは、生産するために、他の製品やサービスをどれだけ使ったかというものです。

このとき、昨日ご説明したとおり、「産出」には、まったく国外の事業所は関係してきませんから、中間投入のところだけです。

ただ、中間投入の中には、海外の事業所から輸入したものの一部が使われているかもしれません。そして、その分だけ、GDPを減らしていることになることはお分かりいただけると思います。

すると、

日本企業が海外の生産拠点(倉庫等)などで製品を生産し、日本で商品を販売した場合

については、海外の生産拠点などで生産したもののうち、「日本で販売したものが、中間投入として使われた分だけ、GDPを減額させ、最終消費支出として使われたものは、まったく影響を与えない」ということになります。

なんだか、昨日の支出側から見たのとちょっと違うことになってきました。。。

これは、GDPとはその言葉のとおり、「生産」のものであるのですが、生産については、その生産に使った輸入品のみが控除されるのに対し、支出側は個別の最終需要からみるため、個別の需要項目(消費及び資本形成)には輸入品に対する消費等が入っているため、それを、最後に「-輸入」として調整しているから、異なってくるのです。

とは言っても、前述のとおり、最終消費の中には「輸入品」の最終消費が入っているため、減額されているのは中間投入の部分と同じなのですが。。。

非常に分かりにくい説明で、わけが分からないかもしれないのですが、少なくとも、「GDPにカウントされますか?」ということについて、単純に「カウントされる」とも「カウントされない」ともいえないような問題であるということはお分かりいただけたと思います。

そもそも、「カウントされる」ということ自体が、GDPの概念とあっていないのかもしれません。

ただ、こういう発想が主流であるのは、日本のGDPが圧倒的に支出側から見られているということに端を発しているような気がします。

そして、支出側から推計しているというのは、国際的には少数派であるということも事実のようです。

なお、供給側推計を重視すべき、と、一部のエコノミストの人たちは、言うのですが、彼らの言っている供給側推計というのは、実は、ここで言っている「生産側から見た」、という話ではなく、「供給側の統計を用いた支出側推計」のことです。

ですので、「国際的にみて、供給側がメイン」という話と、この点は、実は少しずれているんです。

(とはいえ、日本のように、需要側の統計を用いて推計しているというのが、非常にレアケースであるのは確かです。そもそも、諸外国に、家計調査や法人企業統計などありませんし(笑))

※なお、近いうちに一度、この統計メーカーと統計ユーザーについて、お互い誤解があると思われる点について、書いてみたいとは思っているのですが、なかなかその時間もなく。。。

在外事業所との取引

ちょっと連鎖の話は一休みして、この前あったちょっと面白い問い合わせについて書いてみます。

質問は、

「①日本企業が海外の生産拠点(倉庫等)などで製品を生産し、日本で商品を販売した場合

 ②日本企業が海外の生産拠点(倉庫等)などで製品を生産し、海外で販売した場合

 上記2点は、日本のGDPとしてカウントされるのでしょうか?」

というものでした。

ぱっと見たところ、何が面白いのか、と思ってしまうかと思いますが、その話は追々させていただくとして、とりあえず、恐らく一番馴染みのあるご説明から。。。

GDPの構成項目は、支出面からみると、

 民間最終消費支出+民間住宅投資+民間設備投資+民間在庫品増加

 +政府最終消費支出+公的固定資本形成+公的在庫品増加+輸出-輸入

ですから、①、②の取引がどこに入るかを見ればよいことになります。

まず、考えるべきは、日本企業の海外の生産拠点が、「日本の居住者」と見られるか、「外国の居住者」と見られるか、という点です。

93SNAマニュアルでは

14.22.法人企業および準法人企業は、そこで財貨ないしサービスのかなりの量の生産に従事しているか、あるいはそこに所在する土地または建物を所有しているとき、その国(経済領域)に経済的利害の中心を持ち、その国の居住者単位であるといわれる。それらは、段落14.23で取り扱われるその他の条件と併せて、無期限にまたは長期間――1年もしくはそれより長期という指針が示されるが、柔軟に適用される――にわたり操業することを計画する、少なくとも一つの生産事業所をそこに維持しなければならない。(以下略)

14.23.経済領域の外部で居住者単位の人員(及び工場、機械設備)によりなされた生産は、受入国の生産の一部として取り扱われるべきであり、その単位は、もしそれらが上で言及した条件(段落14.22を参照)を満足するならば、当該国の居住者単位(支店ないし子会社)として取り扱われるべきである。(以下略)

となっています。相変わらず分かりにくいのですが、要は、海外の生産拠点については

 ○そこでかなりの量の生産をしている

 かつ

 ○少なくとも1年以上にわたり操業することを計画している

というような事業所は、外国の居住者と見なされる、と書いているようです。

ここで、この在外事業所は、上記を満たす海外の生産拠点のことであるとして話を進めると、①、②ともに、まず、この海外の生産拠点の生産は、我が国ではなく、他国が生産したことになります。

ここで、①のように、他国が生産したものを我が国にもってきて販売した場合はどうなるでしょうか?

ご想像の通り、「輸入」になります。

そうすると、

GDP = 民間最終消費支出+民間住宅投資+民間設備投資+民間在庫品増加

      +政府最終消費支出+公的固定資本形成+公的在庫品増加+輸出『-輸入』

ですから、GDPを減額させるという形になる、これをカウントと言うのか分かりませんが、マイナスのカウントとでも言う形になります。

では、②はどうなるかと考えると、もともと海外の生産が、国内にも入らずそのまま海外で売られているだけですから、我が国のGDPには影響しません。

(この結果、我が国からの輸出が減るなどの間接的な影響はあるかもしれませんが。。。)

2010年8月 7日 (土)

連鎖デフレーター(7)

QE前で、忙しくて、ついつい更新をサボってしまいました。。。

さてさて、ちょっと間が開いてしまいましたが連鎖の続きです。

以前(一週間前)に計算してみた加法整合性がなかった系列(http://taro-sna.cocolog-nifty.com/blog/2010/07/post-ab87.html)について、一年前を基準としてみたら加法整合性が出てくるか確かめてみます。

①1~jまでの合計、②j+1~nまでの合計でしたから

1

2

です。ここで、それぞれ、

①’

3

②’

4

とすると、

①’’

5

②’’

6 

ですから、

7

となり、加法整合性があることが分かります。

ちなみに、最後の式を少し加工してみると、

8

ですから、連鎖実質値の定義式と同じになることが分かります。

2010年8月 2日 (月)

連鎖デフレーター(6)

前回は、連鎖の重要な特徴のひとつである、「加法整合性がない」ということを説明しました。でも、個別の項目を足せないのは不便です。

でも、思い出してほしいのですが、パーシェ型連鎖デフレーターについては、基準年とその翌年については、パーシェ型固定デフレーターと同じと説明しました。そして、同じことですが、基準年とその翌年については、連鎖実質値と固定実質値は同じになります。

ということは、『基準年とその翌年については、加法整合性がある』ということになります。この性質を用いると、個別項目からの統合も可能になります。わが国で(もともとは、イギリスが採用しているのですが)パーシェ型連鎖デフレーターを使っている理由のひとつは、この性質があるからなのです。

さて、基準年とその翌年について、加法整合性があるということは、言い方を変えると、「前年基準に加工してしまえば、加法整合性は成り立つ」ということになります。それを、少し数式を用いて書いてみます。

1

でした。このとき、前歴年を基準年とするためには、デフレーターを前歴年が100となるように調整してやればよいので、

2

をデフレーターとして用いてあげればよいことが分かります。

このとき

3

ですから、求めたいのは、

4

となります。これは、前年価格による当年数量の積和となります。これは当然のことながら、加法整合性があります。

一方、左辺をもう一度考えてみると、

5

となります。これが、前年価格による当年数量の積和なわけですから、すなわち、「前年のパーシェ型連鎖デフレーターと当年の実質値の積は、個別項目を合計することができる。(加法整合性が成立する)」ということになります。

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