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2010年7月

2010年7月30日 (金)

連鎖デフレーター(5)

前回までの話だと、連鎖はいいこと尽くめのように聞こえますが決してそうともいえません。連鎖には、いくつか欠点が指摘されています。

まず、一番良く指摘される欠点は、

 ○ 連鎖実質値には、加法整合性がなくなる。

というものです。

具体的にこの前の1-3月期2次QEで見てみましょう。

http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/qe101-2/jikei_1.pdf

これのP1に実質原系列があります。この中で「開差」という欄があると思うのですが、これが加法整合性がないということをはっきりと示しています。

開差は、具体的には、

 開差 = 国内総生産(支出側) - 国内総生産(支出側)の内訳項目

で求められます。では、どうやって「国内総生産(支出側)」を求めるのか?という疑問が出てくるかと思いますが、そのためには、具体的な計算式で、何で開差が出てくるのかご説明したほうが分かりやすいかと思います。

まず、連鎖実質値は、

1

です。このときi=(1、2、・・・、j、・・・、n)として、

①1~jまでの合計、②j+1~nまでの合計、をそれぞれ計算すると、

2

3

となります。ここで、

4

は明らかに

5

とは一致しません。というのは、分母の部分がついているからなのですが。。。

分母が残ってしまっていることが、加法整合性がないということの理由なのです。

2010年7月29日 (木)

連鎖デフレーター(4)

ようやく、連鎖の特徴の記述まできました。

まず、0年基準のt期パーシェ型連鎖デフレーターの式をもう一度書いてみましょう。

1

一方、0年基準のt期パーシェ型固定デフレーターは、

2

となります。固定デフレーターの欠点として説明した、下方バイアスがあるという点についてもう一度考えてみますと、「価格が変化した場合、数量も価格の変化方向と逆方向に変化しているはずであるが、その数量変化を、価格変化が起こる前の基準年価格で評価している」ことがその原因でした。

では、連鎖デフレーターではその点どうなっているかというと、「基準年から離れても、常に、一年前の価格で数量を評価している」ことがわかります。つまり、下方バイアスの原因をかなりフォローしていることがわかります。

下方バイアスは、特に価格が常に一定方向に変化しているような財がある場合には、影響が大きく出ます。これを確かめてみるために、国民経済計算年報の国内家計最終消費支出の4形態別分類のところを見てみましょう。(付表12になります。

http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/h20-kaku/22annual-report-j.html)

3

4

やはり、全体的に固定のほうが小さいですが、特に耐久財が激しいのが分かります。耐久財でこのような影響が出るのは、耐久財は、「テレビ」、「パソコン」などの価格変化が激しい品目が多いので、一貫して価格が下落傾向になっているからなのです。

ただ、これだけ固定と連鎖で動きが異なるということは、逆に言えば、連鎖方式を導入していることで、かなりの程度下方バイアスの影響を除去できていると言えると思います。

2010年7月26日 (月)

連鎖デフレーター(3)

続いて、このパーシェ型連鎖デフレーターで実質化した連鎖実質値がどうなるかを考えて見ましょう。

まず、計算を省略して、結果だけ書きますと、t年の連鎖実質値(CVと書きます)は、

1

となります。また、その意味を細かく見てみましょう。

2

は、基準年0年の名目値=実質値です。次に、

3

を考えてみると、前年である0年の価格を基準として、0年から1年での数量の変化をあらわしたものであることが分かります。価格の方は基準年に固定されているので、型は「ラスパイレス型」であることがわかります。また、動いているのは価格ではなく数量ですから、数量指数です。これを、「ラスパイレス型数量指数」と言います。つまり、1年の連鎖実質値は、「基準年0年の名目値=実質値に、前年である0年を基準としたラスパイレス型数量指数を乗じたもの」ということができます。

ところで、このとき、

4

ですから、「基準年の翌年(1年)の連鎖実質値は、固定実質値と等しい」ということがわかります。(連鎖デフレーターが固定デフレーターと等しいのですから当然ですが。。。)

これで大体規則性がお分かりいただけたかと思いますが、連鎖実質値は、『一年前基準のラスパイレス数量指数を乗じたもの』となることがわかります。

これを数式で書くと、

5

となります。ここまで書きまして、ようやく連鎖の特徴について、書く準備が整いました(笑)

なお、最後に、参考までに、名目値÷連鎖デフレーター=連鎖実質値となっていることの確認の計算を以下に書いてみます。

6

2010年7月24日 (土)

連鎖デフレーター(2)

続いて、

1

の右辺の2項目

2

を考えて見ましょう。「2年の名目値/1年を基準とした2年の実質値」となっているのが分かると思います。これこそまさしく、『1年基準の2年パーシェ型固定デフレーター』です。

ここまででもうお分かりと思いますが、パーシェ型連鎖デフレーターの式の右辺のそれぞれ乗じられている分数は、すべて『一年前基準のパーシェ型デフレーター』となっています。

これを一般的に書くと、

3

ということになります。つまり、

 ○ パーシェ型連鎖デフレーターは、前年のパーシェ型連鎖デフレーターに、前年を基準としたパーシェ型固定デフレーターを乗じたもの

ということが分かります。

2010年7月21日 (水)

連鎖デフレーター

ちょっと前の話の続きで、少し長くなりますが、連鎖デフレーターについて書いてみます。

わが国のSNAでは、実質化において、パーシェ連鎖デフレーターを使っています。(正確には、支出系列と生産系列だけですが。。。)

連鎖方式というのは、言葉の通り、デフレーターについて前年から数珠つなぎにつないでいくということで、もっと正確に言うと、「前年のデフレーターから、前年を基準としたデフレータを数珠繋ぎにつないでいく」というものです。言葉だけでいっても分かりにくいので、数式で示してみようと思います。(特にデフレーターについては、残念ながら、言葉よりも数式の方が圧倒的に分かりやすいです。)

t年のパーシェ型連鎖デフレーター(CPと書きます)は次のようになります。(0年は基準年です。)

1

言葉で説明すると、

2

は、基準年の名目値を実質値で割ったものです。といっても、当然、基準年は名目と実質が同じですから、これは1となります。

では、次の

3

は何かと考えると、「1年の名目値/0年を基準年とした1年の実質値」ですから、『0年基準の1年パーシェ型固定デフレーター』ということになります。ただ、今はもともと0年基準ですから、0年基準などという条件は不要です。そうすると、「1年について、つまり、基準年の翌年については、固定デフレーターと連鎖デフレーターは一致する」ということが分かります。

2010年7月17日 (土)

GDP統計の在り方検討(2)

2つ目は、単純な話で、今まで、民間設備投資の需要側補助系列の推計では、金融・保険については法季が使えなかったため、予測調査を使っていたのですが、2年前から法季でも金融・保険を調べるようになってくれたため、これを使うようにする、という話です。

需要側の推計をやるのは2次QEだけなので、これの導入は、次の4-6月期の2次QEからということになります。

予測調査の場合、当期の数字は「実績見込み」なので、次の期(4-6月期の場合は7-9月期)で実績値に置き換わってしまうのですが、法季であればそれが「実績値」なので、その置き換わりもなくなるので、その点は「メーカー」としても助かります。

そして3つ目が、ベンチマークの改善なのですが、これもマニアックなのですが、これは、QEというより確報の話になります。

今まで、暦年の数値は主に「工業統計表」を用いてコモディティー・フロー法(以下、「コモ法」)で推計しており、年に1回確報推計のときにでます。一年間の数字としてはこれが一番確からしいということになっています。一方、QEなどでは四半期の数字を推計していますが、この四半期値の合計と、コモ法の暦年値とでは当然ずれてきますので、四半期値の合計とコモ法の暦年値をそろえる調整を、確報の時に行います。

今までは、このやり方を、単純に四半期値の比率で暦年値を分割するという方法をとっていたので、暦年が変わるところ(10-12月期から1-3月期)だけ、「四半期の伸び率+暦年の伸び率」となってしまい、この部分だけ季節パターンにゆがみが出てしまう可能性がありました。そこで、今後は、この「+暦年の伸び率」の部分を、ほかの期にもばら撒いて、できるだけ、一箇所にゆがみが集中しないようにしたという感じです。

2010年7月15日 (木)

GDP統計の在り方検討

本日、前に少し書きました、「GDP統計の在り方」についての検討結果を公表しました。

http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/100714/announce.pdf

専門的過ぎて、分かりにくいと記者の方から「相当」言われたのですが、確かにそのとおりで、思いっきり推計手続きの話なので、どうしてもそうなってしまうのです。。。(逆に言えば、ここまでマニアックなところに入らないと、もう、改善余地がないということでもあるのですが。)

そこで、罪滅ぼしでもないですが、少しだけ、簡単に解説をしたいと思います。

一つ目は、以前、このブログでも書いた、1次QEにおける需要側推計値の仮置き値の話です。お忘れになっていたら、これを見てみてください。

http://taro-sna.cocolog-nifty.com/blog/2010/06/13-2816.html

ここでも書きましたが、

1次QEでは、需要側推計値は作成できないが、その季節調整済前期比増減率が供給側推計値の季節調整済前期比増減率と同じであると仮定して需要側推計値を作り、

というところのことでして、ここで書いてある、「季節調整済前期比増減率」というやつが、「TCI」系列の前期比増減率になります。ここから、「I」をとった、TC系列の前期比増減率が、「需要側推計値」の「季節調整済前期比増減率」と等しいとして、仮置きするということです。

一応説明すると、季節調整を行うときに、X12-ARIMAでは、TC系列、I系列、S系列に分解します。(TC系列は、厳密には、T系列とC系列に分解できるのですが、X12-ARIMAではできません。)

で、TC系列というのは、トレンド(T:長期趨勢)、サイクル(C:短期変動)、イレギュラー値(I:不規則変動)、季節変動要因(S)です。季節調整とは、こうやって各要素に分割したもののうち、Sだけ取り除くものです。

今までは、これで、需要側推計値と供給側推計値で、季節調整済前期比が等しいだろうと仮定していたのですが、よくよく考えてみると、需要側推計値の「I」と供給側推計値の「I」が同じ方向に動くかどうかなんて分からない、というか、「I」の定義上、「どこに動くか分からない部分」というものなので、予測しようというのが無理なんですよね。

そこで、供給側の「I」で、需要側の「I」を予測しようとするよりは、供給側の「I」は無視するつまり「0」だと考えたほうが、平均的には当たるでしょう、ということなんです。

これが、一つ目の話です。

2010年7月11日 (日)

デフレーターのバイアス(2)

パーシェにつづいて、ラスパイレス型デフレーターを考えてみます。

ラスパイレス型デフレーターは、

1_2 

です。

このラスパイレス型デフレーターの分子にあたる、

3

の意味は、「t年の価格で、基準年の数量を測ったもの」といえます。これもまた、価格が下がった場合、数量は増えるにもかかわらず、数量が増える前の基準年となっていますから、これもまた「過大」となっていることが分かります。

そうすると、分子が「過大」ですから、ラスパイレス型デフレーターは、「上方バイアスがある」ということになります。

わが国のSNAでは、パーシェ型のデフレーターを使っています。ということは、デフレーターに下方バイアスがある、逆に言うと、実質値は上方バイアスがあることになります。しかも、お分かりの通り、基準年から離れれば離れるほど、価格変化は大きいと考えられますから、バイアスも大きいと考えられます。

参考までにいうと、CPIはラスパイレス型なのです。

これは問題ではないか?という疑問が出てくるかと思いますが、実は、わが国のSNAでは、これに既に対応しています。具体的にはパーシェ型デフレーターといっても、「連鎖指数」を採用しています。先に説明してしまうと、連鎖指数だと、今まで説明してきたバイアスが相当程度、解消されます(全部ではないですが)。

その連鎖についてどこかで時間をある程度使って説明してみたいと考えています。

2010年7月 9日 (金)

デフレーターのバイアス

私の所属している部局の職員から、デフレーターについて質問を受けました。その内容としては、パーシェ型デフレーターに下方バイアスがあるのはなぜか?というものでした。

そのときは、

 ①パーシェ型デフレーターは、(当期名目値)/(基準年価格指数×当期数量)で定義

 ②ある財の価格が下がったら、普通は、その財の消費が増えるはず

 ③パーシェ型デフレーターは、その増えた財の「数量」を、基準年の価格でもって評価してしまう

 ④そのため、分母が過大評価となるので、下方バイアスがある

と説明しました。

基本的にはそういうことなのですが、これだとやはり説明が舌足らずのような気もしますので、もう少し細かく説明してみます。

まず、デフレーターとは何かを考えて見ましょう。デフレーターは、名目値から実質値を求めるためのものです。実質値とは、本来、名目値から価格変化の影響を除いたものですから、理想的には、「デフレーターは、基準年から当該年度の価格変化の影響を図るもの」と言えそうです。

さて、ここでで、パーシェ型デフレーターは、

で定義されます。

8_2

このパーシェ型デフレーターの分母にあたる、

9_2

は何を意味しているのでしょうか?価格が基準年で、数量がt年のものですから、「基準年の価格で、t年の数量を測ったもの」といえます。これが分母で、分子はt年の名目値ですから、一応は、価格変化の影響を除去するものと言えそうです。

ただ、ここで考えてよく考えてみると、

10_2

すなわち、「基準年の価格で、t年の数量を測ったもの」というのは、本当に、価格の変化の影響をすべて反映しているといえるでしょうか?というのは、ある財の価格が下がったら、一国全体ではみんなその財を購入しようとするのではないでしょうか?でも、このパーシェ型デフレーターの分母は、数量についてはt年の数量ですから、多く購入した数量とまだ価格が高かった基準年の価格を乗じています。つまり、この値は、「価格の変化によって発生する数量の変化」は入っていないといえそうです。

それでは、「価格の変化によって発生する数量の変化」も反映した場合の分母はどうなるかというと、価格が下がった財の数量は増え、価格が上がった財の数量は減るでしょう。そうすると、パーシェ型デフレーターの分母は、数量の変化が反映されない分、「過大」となっていることが分かります。

分母が過大なわけですから、指数自体は当然、「過小」すなわち「下方バイアスがある」ということになります。

****************

この記事については、平成22年9月17日付けで訂正記事を書いています。

http://taro-sna.cocolog-nifty.com/blog/2010/09/post-99f7.html

2010年7月 8日 (木)

『最終消費支出』と『現実最終消費』(5)【「個別」と「集合」(続き)】

個別消費支出(Individual Consumption Expenditure

)と集合消費支出(Collective Consumption Expenditure

 非市場生産者の最終消費支出は、個々の家計の便益のために行った「個別消費支出」と社会全体のために行った「集合消費支出」に区分される。

 具体的には、「個別消費支出」は、医療保険及び介護保険によるもののうち社会保障基金からの給付分である「現物社会給付」、及び教科書購入費、教育、保健衛生などの個別的サービス活動に要する消費支出である「個別的非市場財・サービスの移転」の和となっており、「現物社会移転」の額と等しい

 一方、「集合消費支出」は、外交、防衛、警察等の社会全体に対するサービス活動に要する消費支出である。

 なお、この移転のうち、一般政府から家計への移転額は一般政府の個別消費支出に計上される。

 また対家計民間非営利団体から家計への移転額は対家計民間非営利団体最終消費支出に等しい。

3パラ目の集合消費支出については説明済みです。また、4パラ目も、現物社会移転が個別最終消費支出に等しく、それは民間現実最終消費に含まれるといっているだけです。

最後のパラがまた、うそではないものの分かりにくい表現です。非営利団体から家計への移転額は、非営利の最終消費支出に等しいと書いてあるのですが、これが言わんとしていることは、『対家計民間非営利最終消費支出は、すべて個別消費支出である』ということなのです。

非営利というのは、もともと、「ある特定のグループの人たちに対して、営利を目的としないでサービスを提供するのが目的であろう」という考えがもともとのSNAの考えにあるようで、そうなると、その非営利の最終消費支出も、「特定の個人に享受されるためのものであろう」、という考えのようなのです。

ですので、非営利については、「現実最終消費」は存在しません。だから、

最終消費支出()と現実最終消費(

 (中略)

 ・家計の現実最終消費は、家計の最終消費支出、対家計民間非営利団体の最終消費支出及び政府の個別消費支出の和。

 ・政府の現実最終消費は、政府の集合消費支出。

ということになるわけです。

最後に、何で、こんなように、「現実最終消費」と「最終消費支出」の二元表示をするかというと、医療、介護、教育などの分野については、各国で自己負担割合やお金の流れなどの制度が異なっており、「最終消費支出」だけでは国際比較が困難となるからなのです。その点、「現実最終消費」であれば、すべて享受者の最終消費に計上されますから、国際比較がしやすくなります。

さらにいうと、現実最終消費の概念を導入した結果、可処分所得も新たなものが加わります。すなわち、調整可処分所得でして、

 調整可処分所得 = 可処分所得 +現物社会移転の受取 - 現物社会移転の支払

となります。

2010年7月 6日 (火)

『最終消費支出』と『現実最終消費』(4)【「個別」と「集合」】

個別と集合については、もう少し書きたいこともあるので、続きを書きます。

また同じ文章ですが、

個別消費支出(Individual Consumption Expenditure)と集合消費支出(Collective Consumption Expenditure)

 非市場生産者の最終消費支出は、個々の家計の便益のために行った「個別消費支出」と社会全体のために行った「集合消費支出」に区分される。

 具体的には、「個別消費支出」は、医療保険及び介護保険によるもののうち社会保障基金からの給付分である「現物社会給付」、及び教科書購入費、教育、保健衛生などの個別的サービス活動に要する消費支出である「個別的非市場財・サービスの移転」の和となっており、「現物社会移転」の額と等しい

 一方、「集合消費支出」は、外交、防衛、警察等の社会全体に対するサービス活動に要する消費支出である。

 なお、この移転のうち、一般政府から家計への移転額は一般政府の個別消費支出に計上される。

 また対家計民間非営利団体から家計への移転額は対家計民間非営利団体最終消費支出に等しい。

についてです。

1パラは説明済みですので、2パラからいくと、まず、「個別」は、医療や介護の保険給付部分が入り、それを「現物社会給付」といいます。この言葉からも、実際は病院がサービスを生産しているにもかかわらず、政府が当該サービスを購入した後「給付している」と整理していることがよく分かると思います。

このほかに、教科書の購入費や教育サービスなどの、家計に直接便益が享受される活動に対する『政府の消費支出』も含まれ、これを「個別的非市場財・サービスの移転」と言います。

この言い方も非常に「プロ使用」になっていて(笑)注意深く読まないと、読み飛ばしてしまいます。前も説明しましたが、教育サービスなどは、「市場価格」が存在しないので、その生産にかかった費用を積み上げます。ただし、そのサービスを享受した家計は、まったく対価を払っていないわけでなく、「授業料」として一部払っています。でも、その「授業料」だけで、生産にかかった費用をすべて賄えるわけではないですから、その残った部分を政府が自己消費しているとみなすのですが、その部分を「個別的非市場財・サービスの移転」というのです。もうお分かりのようにここでいう「授業料」は「商品・非商品販売」ですから、個別消費のうち、現物社会給付以外の部分については、

 「個別的非市場財・サービスの移転」=「生産費用」-「商品・非商品販売」

     =「雇用者報酬」+「固定資本減耗」+「生・輸税」-「商品・非商品販売」

ということになります。

なお、それではこれとの並びで、医療や介護の自己負担部分は「商品・非商品販売」で残りの部分が「現物社会給付」、と思ってしまいそうですがそうではありません。

医療や介護は、他の行政サービスと違い、生産者は病院などの民間や公的の産業です。政府が自ら生産しているわけではないです。ですので、自己負担分の3割(介護は1割)は、家計から病院への支払としてカウントされます。そして、給付部分だけが、政府が購入したとみなして、政府最終消費支出に計上されます。

これら2つの合計が「現物社会移転」であり、「個別消費支出」と等しくなります。

『最終消費支出』と『現実最終消費』(3)

さらに、昨日の続きです。

『最終消費支出』と『現実最終消費』は、「誰が支払っているか」に着目するか、「誰が便益を享受しているか」に着目するか、の違いということでした。そうすると、「誰が便益を享受しているか分からないサービス」も存在するが、それはどうするのか?という疑問が出てきます。

政府や民間非営利団体などの、生産部門が「自己消費」していると擬制しているものについては、その消費を、「個別消費」と「集合消費」に区別しています。久々に、わが国のSNAの解説を見てみると、

個別消費支出(Individual Consumption Expenditure)と集合消費支出(Collective Consumption Expenditure)

 非市場生産者の最終消費支出は、個々の家計の便益のために行った「個別消費支出」と社会全体のために行った「集合消費支出」に区分される。

 具体的には、「個別消費支出」は、医療保険及び介護保険によるもののうち社会保障基金からの給付分である「現物社会給付」、及び教科書購入費、教育、保健衛生などの個別的サービス活動に要する消費支出である「個別的非市場財・サービスの移転」の和となっており、「現物社会移転」の額と等しい

 一方、「集合消費支出」は、外交、防衛、警察等の社会全体に対するサービス活動に要する消費支出である。

 なお、この移転のうち、一般政府から家計への移転額は一般政府の個別消費支出に計上される。

 また対家計民間非営利団体から家計への移転額は対家計民間非営利団体最終消費支出に等しい。

また細かくて分かりにくいですが、ばくっといって、「個々の家計の便益のための『政府の消費』」(このレトリックが一発で理解できれば、SNAに相当慣れている証拠です(笑))が「政府個別消費支出」で、「社会全体のための『政府の消費』」が「政府集合消費支出」です。

具体的な例としては、「集合」は、昨日上げた、防衛とか警察みたいな、「世の中全体のための制度設計」みたいなものです。一方、「個別」は、教育サービスとか、一昨日の例で出た医療サービスとかです。

そして、重要な点は、「『個別消費支出』については、『家計現実最終消費』に含まれ、『政府現実最終消費』は、『集合消費支出』だけになる」という点です。

すなわち、これもSNAの解説からもってくると、

最終消費支出(Final Consumption Expenditure)と現実最終消費(Actual Final Consumption)

 (中略)

 ・家計の現実最終消費は、家計の最終消費支出、対家計民間非営利団体の最終消費支出及び政府の個別消費支出の和。

 ・政府の現実最終消費は、政府の集合消費支出。

ということになります。

2010年7月 5日 (月)

『最終消費支出』と『現実最終消費』(2)

昨日の続きです。

昨日は、医療サービスに対する支払(医療費)の保険給付部分は「政府最終消費支出」に計上されると書きました。でも、実際に医療サービスを享受しているのは私、すなわち「家計」です。タイトルに出ている「現実最終消費」の概念でみると、この保険給付部分も「民間現実最終消費」に入ります。そして、「政府現実最終消費」には含まれません。

これはどういう考え方かというと、「消費を『費用負担』と『便益享受』の異なる観点から捉えて、消費に2つの概念を導入する」、ということなのです。すなわち、

 ○当該制度部門が実際に支出した負担額 ⇒ 「最終消費支出」

 ○実際に享受した便益の額       ⇒ 「現実最終消費」

ということです。

今回の医療サービスの場合は、『便益享受』をしているのが私であることが明らかですから、今回のような整理は簡単で、「医療サービス」に対する支出はすべて「民間現実最終消費」に含まれます。

でも、例えば、「政府最終消費支出」の中には、警察サービスとか自衛隊の防衛サービスとか、そんな「誰が享受しているか分からないもの」もあります。そこで、「最終消費支出」と「現実最終消費」の区別はどのようにしたらいいでしょうか?

2010年7月 4日 (日)

『最終消費支出』と『現実最終消費』

消費の話です。

今のSNAは、93年に国連によって勧告された93SNAに基づいて推計しているのですが、93SNAの特徴のひとつとして、消費の概念を徹底して二元化していることがあげられます。(ちなみに、93SNAの前は68年に勧告されたので、68SNAと言います。ここで、93SNAの特徴というのは、その68SNAと比べての特徴ということになります。)

以前、少しこの話も触れたことがあるのですが、少し「最終消費支出」と「現実最終消費」の違いの話に触れてみたいと思います。

5月12日に、このブログで、政府最終消費支出(Final Consumption Expenditure of Government)解説として次のように書きました。

政府は、国内の家計とかのために、多くのサービスを生み出しています。具体的には、全国的なものだと警察とか法律を作ったりとか、地域的なものでも街灯を設置したりとか、窓口で住民票を発行したりとか、そんなものです。ただ、政府は儲けようとしていないので、生み出したサービスについて、一部しか料金という形でお金は徴収していません。政府が生み出したサービスから、家計とかに販売した額を引いたものについては、『政府が自分で消費しているものと見なす』ってことが、ここで言っていることなのです。もちろん、その『政府が自分で消費していると見なす』部分については、税金などでまかなわれています。

(正確には、これに医療・介護の保険給付分を足したものになります。これについては、「最終消費支出」と「現実最終消費」の違いにつながってくるので、また別の機会に。)

さて、何を言っているのか少し細かく考えながら書いて見ます。具体例として挙げられている「医療・介護の保険給付分」とはどういうものかと考えてみましょう。

例えば、私が病気をして、病院に行くとします。そのとき、お医者さんに診察してもらい、診察代金を支払います。そして、薬が出るときは、その薬代も支払います。でも、ご存知のとおり、実際の診察代金や薬代は、私が直接払う部分だけじゃなくて、国民健康保険などの医療保険からも支払われています。今のわが国の制度だと、私が自分で払う自己負担の部分は3割で、保険は7割出しています。

これを、SNAではどのように記録するかというと、

 ○ 医療機関が医療サービスを産出

 ○ 医療サービスを一般政府(社会保障基金)が購入

 ○ 医療サービスのうち、自己負担部分(3割)は商品・非商品販売として、家計最終消費支出に計上

 ○ 一般政府(社会保障基金)が購入した医療サービスから自己負担部分を控除した7割部分について、政府最終消費支出に計上

となります。

ここで、ひとつ疑問がわいてきます。というのは、ここでいう医療サービスは、完全に「家計」のためにサービスされています。それなのに、保険給付部分の7割は「政府最終消費支出」になってしまいます。サービスの享受を受けているのは「家計」なのに、「家計最終消費支出」でなく、「政府最終消費支出」なのはなんだかおかしくないだろうか、と。。。

これに対する93SNAの整理が、「最終消費支出」と「現実最終消費」の区別なのです。

2010年7月 2日 (金)

支出側?生産側?―続きの続き―

3日目になってしまいました。

昨日の整理です。

GDP(支出側)=GDP(生産側)なのに、支出側には入っていなくて、生産側に入っているって、どういうことなのか、ということが疑問でした。

では、まず、GDPの総額でどう整理されるのか考えて見ます。

以前の図に戻って、

GDP(生産側)= A産業の産出 - A産業の中間投入 (=A産業の付加価値)

        + B産業の産出 - B産業の中間投入 (=B産業の付加価値)

                    ・・・

        + Z産業の産出 - Z産業の中間投入 (=Z産業の付加価値)

ですから、B産業の産出は、すべて他の産業の中間投入に含まれるということになっていますから、A、C~Z産業までのどこかの

  - ■産業の中間投入

の部分に含まれます。で、B産業の産出は定義から、

  B産業の産出 = B産業の付加価値 + B産業の中間投入

ですから、結局のところ、他の産業の中間投入に含まれるという形で、B産業の付加価値分はマイナスになっています。これと同じように、中間投入に回る産出は、すべて、他の産業の中間投入(正確には、同じ産業の中間投入かもしれませんが)に含まれて、同額だけ付加価値をマイナスさせていると考えられます。

式で無理やりにでも書いてみると、

  GDP(生産側)=

 A産業の最終需要向け産出 + A産業による他の産業の中間投入向け産出

  - A産業の中間投入(=他の産業によるA産業の中間投入向け産出の合計)

+ B産業の最終需要向け産出 + B産業による他の産業の中間投入向け産出  

- B産業の中間投入(=他の産業によるB産業の中間投入向け産出の合計)

                      ・・・

 + Z産業の最終需要向け産出 + Z産業による他の産業の中間投入向け産出 

 - Z産業の中間投入(=他の産業によるZ産業の中間投入向け産出の合計)

となります。ここで、最終需要とは、中間投入以外なので、

  最終需要 = 最終消費支出 + 総資本形成 + 輸出 - 輸入

ということです。ここで、

「■産業による他の産業の中間投入向け産出」

 

のA~Zまでの合計と、

  「(=他の産業による■産業の中間投入向け産出の合計)」

 のA~Zまでの合計は必ず等しいはずです。そうすると、すべて相殺されて、

  GDP(生産側)= A産業の最終需要向け産出 + B産業の最終需要向け産出

                      ・・・

      + Z産業の最終需要向け産出

となります。最終需要は「最終消費支出+総資本形成+輸出-輸入」ですから、これは、ただ単に、支出側の各項目向けの産出をしています、と言っているだけのことになります。ですから、GDP(支出側)=GDP(生産側)は等しいのは当然、ということになります。

これを整理すると、以下のような答えになるのではないかと思います。

○中間投入のみに回る財は、最終需要に入ってないのは確か。したがって、GDP(支出側)の構成項目には入っていない。

GDP(生産側)は、付加価値の合計だが、中間消費のためにしか使われない財を産出する産業でも、付加価値は発生はしているので、それを個別に積み上げたGDP(生産側)の構成項目には入ってくる。

○ただし、中間消費のためにしか使われない財を産出する産業の付加価値を発生させるのと同額だけ、他の産業の中間投入を増加させて当該産業の付加価値を減らす、という面もあるので、それを合計すると、結局のところ、最終需要向けの産出と等しくなる。

分かりにくいかと思いますが、多分、うそは言っていないはずです(笑)

2010年7月 1日 (木)

支出側?生産側?―続き―

昨日の続きです。以下の質問を考えています。

 「ある産業が生産する財は、すべて他の財・サービスの生産のための中間投入のために使われることとします。その場合、その産業の生産する財はGDPに含まれるのでしょうか?」

3面等価ということがを聞いたことがあるかもしれませんが、その話に関連してきます。3面等価とは、生産側、分配側、支出側の3つの面から見ても、GDPは同じになると言うことなのですが、今回は、生産側と支出側から、この質問を考えてみたいと思います。

前述のとおり、支出側では、

GDP(支出側)= 最終消費支出 + 総資本形成 + 輸出 - 輸入

ですから、少なくとも、中間投入に使われた財は、構成項目には入っていません。

では、生産側ではどうでしょうか?

  GDP(生産側)= 産出 - 中間投入 (= 付加価値)

となります。これを少し加工してみましょう。

GDP(生産側)= A産業の産出 - A産業の中間投入 (=A産業の付加価値)

        + B産業の産出 - B産業の中間投入 (=B産業の付加価値)

                    ・・・

        + Z産業の産出 - Z産業の中間投入 (=Z産業の付加価値)

ここで注意として、国内の産業は、全部でA~Zまでしかないとします。

さて、質問に戻って、例えば、B産業が作っている財がすべて他の『産業』(『財』でも同じですが、分かりやすくするため、ここでは『産業』と書いておきます)の中間投入とされているとします。そうであったとしても、

B産業の付加価値 = B産業の産出 - B産業の中間投入

ですから、産出よりも中間投入が多い、というような産業(そんな産業、そもそも成立し得ないのですが。。。)でない限り、B産業は付加価値を生んでいます。付加価値を生んでいるということは、少なくとも、GDP(生産側)には、含まれていることになります。

念のため書いておきますが、GDP(支出側)=GDP(生産側)です、3面等価ですから。

となると、支出側には入っていなくて、生産側に入っているって、GDP(生産側)の方が大きくなりそうな気がしますよね。なんだか、何かにだまされているような気がしてきました。これは、一体どう整理したらよいのでしょうか???

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